「全国タクシー」ベンチャー社長の僕が『Joy,Inc.』から学んだこと
本を読むのは、何かを得たいからだと思う。私自身、多くの経営に関する勇気や希望を本から得てきた。少しでも真似できればと思い、少しずつでも実際の経営に取り入れてきた。ドラッカーからは「経営とは顧客を創造すること」と教わり、例えば4年前に陣痛タクシーという妊婦向けサービスの導入の決断につながった。稲盛和夫からは「物事の本質を追求し人間として何が正しいかで判断するのが経営」と教わり、度の過ぎた顧客の要求に対抗すべく、都内で最初に車内防犯カメラを装備した。
いま、タクシー業界はIT化の大波に飲み込まれようとしている。アプリによる劇的な利便性の向上を武器に、米国発のライドシェア企業が世界に拡大、東京でも事業が始まった。黒船襲来! 我々日本交通は、オペレーション力という「刀」を腰に差したまま、アプリという「鉄砲」を手に、現在進行形で文明開化を進めている最中である。まず隗より始めよ。昨年、日本交通の社長を知識賢治というプロ経営者に託し、JapanTaxi という「全国タクシー」アプリ運営子会社の社長に就任した。ITベンチャー社長1年目、新しい挑戦に悩みは尽きず……いまこそ本にすがるときだ!
この本、『Joy, Inc.』から、私は以下のようなことを学んだ。
- 文化が一番大事。すばやくたくさん失敗しよう!
- 見える化・情報の共有化が文化の背骨、構造的な仕掛けを作る。
-
社員も顧客も文化を第一に選び、品位と配慮を持って文化を信じきる。
このように書くと凡庸に聞こえてしまう。言うは易し。実践しなければ『Joy, Inc.』を読んだ時間が無駄になる。早速、以下のことを自分の会社JapanTaxi で実践してみようと思っている。 - 2章の「オフィス警察はいらない」をヒントにレイアウト変更をしよう。長らく変えていないチームがあるのだ。
- 「デイリースタンドアップ」のように、毎朝十時から、立って簡単なミーティングをしてみよう。まずは五分。いきなり全員、というのは気がひけるので、取締役四人から始めてみたい。
- 毎週、いやニ週に一度でもよいので、開発途中の機能などの報告会を行い、例えばタクシーアプリの新機能ならそれを実際に使うタクシー顧客や乗務員を早くから巻き込む。いまはほぼ完成してから見せているが、4章の「ショウ&テル」や7章の「オフィスに顧客を呼ぶ」、10章の「触れられる成果を頻繁に提供する」を真似てみよう。
- 採用プロセスには、実際の仕事に丸一日従事してもらおう。確かに、一〜二時間の面接では、正直、相手のことがよくわからない。
- 自分なしでチームが成長するのを見守る。我慢強く。8章から学んだ。
- やるべき仕事を紙のカードで視覚的に進捗管理する。いまはまさに「カオス」だから、9章の「書き出す」を実践するのだ。
それにしても『Joy, Inc.』は正直な本だ。格好つけていない。IT企業なのに、紙に手書き・セロテープで貼って進捗管理。リモートワークは信じない。仕切りのない大部屋でワイワイガヤガヤ!
でも私は、そこに凄みを感じる。実践してきた自信からだろう。格好ではなく、実績。結果なんだ、
ビジネスは。同時に、Googleやピーター・ティールの本にはない「ちょっと頑張れば手が届く」親しみやすさがある。頭がよいだけでなく苦労してきた人格者なんだろう、創業者のリチャード氏は。
ここまで書いてハッと気づいた。この本が語っているのは、最近流行りのソフトウェア開発手法である、アジャイルのことだと。完全に経営書だと思って読んでいた。つまりそのくらい、アジャイルの思想は経営そのものなのだろう。アジャイル経営。素晴らしい。実践しますよ。
私が目指すのは、まずはJapanTaxi 社員五十人の喜び。次に日本交通七千人、そしてタクシー業界四十万人の喜び。
みなさんは、『Joy, Inc.』から学んで、誰を喜ばせますか?
Japan Taxi 株式会社代表取締役社長
日本交通株式会社取締役会長
川鍋一朗