実物経済から金融経済のシフトが会計環境を変えた
本セミナーの講演資料を無料ダウンロードいただけます。
1.日本CFO協会 中澤進氏資料「変貌する会計環境とCFOの役割」
2.日立システムズ 鈴木 孝輔氏資料「日本の出張経費精算市場を徹底解説」
3.日立システムズ「Traveler'sWAN」インタビュー記事
ダウンロードはこちら
グローバル化で大きな変化にさらされている会計環境。その本質と論点を中澤さんは冒頭で整理した。
第一は、現代の資本主義の特長ともいえる「金融資産の拡大」だ。過去30年間のGDPと金融資産の伸びを比較してこう語る。
GDPは実物経済で、ものをつくり、ものを売るという世界を反映してます。それに対して、金融経済は金融資産がベースになるわけですが、ここ35年での金融資産対GDPの伸び率の差は20対7と大きな開きがあります。これは、ピケティが『21世紀の資本論』の中で、金融資産からのリターンが実物経済の成長・収益を上回っており、これが格差の源流だ、と論じたこととまさに符号します。
実物経済から金融経済へのシフトは、会計基準にも大きな影響を与えた。
固定資産を取得し、減価償却し、残存価格が残るという取得原価主義会計の世界から、マーケットバリューや将来キャッシュフローの現在価値という考え方を反映した公正価値会計へのシフトだ。これはIFRS(国際財務報告基準)の考え方のベースだと中澤さんは言う。
コーポレートガバナンスコードとスチュワードシップコード
第二は、金融工学を背景にした金融イノベーションの進展である。商取引の決済手段であったお金が証券化を通じて様々な金融商品として生み出された。この金融イノベーションは光と影をもたらしている。リーマンショックのきっかけとなったサブプライムローンをもたらしたのは証券化による「負の側面」であると中澤さんは言う。
第三は、年金、投信信託、保険等の主たる機関投資家の影響力。世界の金融資産は2015年ベースで約225兆ドルである。その内の約40~50パーセント、また、株式時価総額の60~75パーセントをこれら機関投資家が有している。
この機関投資家への資金の出し手は誰かというと、一般大衆です。すなわち、機関投資家は一般市民への収益の還元責任と共に説明責任を負っているということ。そしてその機関投資家が上場企業の株式に投資をおこなっている。したがって機関投資家は、上場している株式会社に対して企業価値向上に関しての意見を言わざるを得ないわけです。これが株主重視が強く求められる現代のコーポレートガバナンスの一つの要因ということです。
第四は金融の自由化・金融のグローバル化である。世界の金融自由化がはじまったのは1986年英国ビッグバンと言える。日本においては1990年後半に当時の橋本内閣の下、金融制度の改革が行われた。
これは一説によると、アメリカからの強力な圧力があったと言われています。この金融制度改革を受けて、会計ビッグバンが2000年に行われました。ここが日本の会計基準の国際化のスタートポイントです。ここでつくられた主な会計基準が、連結主体会計、退職年金会計、それと金融時価会計の三つです。
グローバル化は二つの観点から見る必要があると中澤さんは言う。一つは証券市場のグローバル化。それと企業活動のグローバル化だ。
証券市場のグローバル化は、東証の外国人投資家の売買高の推移を見れば分かる。この30年で約2倍、2015年ベースで約7割を占めるに至っている。また、彼らの持ち株比率は2015年の3月期の金額ベースで約3割に達し、この30年間で約3倍になってる。つまり東証へ上場した瞬間に外国人投資家の価値観で振る舞う必要があるということだ。
彼ら(外国人投資家)が一番要求するのは何かといいますと、透明性です。日本が神秘の国であるというイメージは、インバウンドビジネスでは非常に魅力的なのですが、証券市場でこれを言ったら外国人投資家は寄ってこないのです。大企業の会計不祥事などの事件があると、外国人投資家に不信感を与えます。インターネットが国境と時差を無くし、かつ金融商品化も進んでいる中、ロンドン、ニューヨーク、フランクフルト、東京、上海、瞬時でデータが流れ、機関投資家はそれらを俯瞰しながら取引をおこないます。そうしますと株式については、公開されている企業の財務資料の比較可能性が強く求められます。比較可能性がある財務情報を出せない企業は、機関投資家から相手にされなくなるのです。もう一つは当然ながら、フェアネス・公平性ですね。ズルをしていないという事を証明するのは極めて重要です。
こうした証券市場のグローバル化が「会計基準」、「開示基準」、「監査基準」という企業会計の3つの要素に透明性、比較可能性、フェアネスを強く求めるようになった。これに企業の行動規範(コーポレートガバナンスコード)、機関投資家の行動規範(スチュワードシップコード)が加わることで、グローバル化した証券市場の健全化を推進して行こうとしている。その中で会計情報は情報開示の再重要な数値基盤となる。会計情報システムの重要性が益々求められる時代になったという訳である。
「租税回避」がCFOの尺度の時代は終わった
中澤さんは企業活動のグローバル化へ論点を進める。企業活動のグローバル化は3段階で進化してきた。
戦後為替レートが360円だった1950年代、60年代の日本は、人件費と為替の競争力でがんがんと輸出して、輸出立国となった。当初はMade In Japanは安かろう悪かろうの代名詞だったが、不断の品質改善により高品質で安価な製品を世界中に販売できるようになった。その後の貿易摩擦や人件費の高騰、円レートの切り上げなどの影響もあり、日本企業は、生産拠点、販売拠点を海外に展開していった。
現在は、ものが一番安いところで製造して、たくさん売れるところで売る。国も地域も関係ないですね。そして、法定税率の一番安いところで利益を上げるというのがグローバル企業のスタンダードです。私がおりましたIBMでは、70年代から80年代前半までのCFOの業績評価として、「アメリカの法定税率をいかに下回るか」をひとつの尺度にしていました。
企業の評価指標としていわれるROE(自己資本利益率)や、EPS(一株当たり利益)における利益は税引き後の利益を意味する。欧米の会社から見ると税金というのは「最大の経費」であり、それを「どうやって最小化するか」もビジネス上の尺度なのだ。脱税のような不正行為は言語道断であるが「租税回避」は極めて重要な経営テーマである。ただし、行き過ぎた租税回避は問題となる。それに待ったをかけたのが、2013年に公表されたOECDのBEPS行動計画だ。大半の日本企業にとっては行き過ぎた租税回避という論点は避けられるものの、二重課税等の法的リスクは高まると考えられる。いずれにしても今後、グローバルに活動する日本企業にも大きな影響を及ぼす事が予想される。
小会社のガバナンスが問われる時代
最も重要なのが連結企業グループを一つの会社と見立てた「連結ガバナンス」という考え方である。従来、これは日本企業の苦手とするものだった。
日本で連結主体の開示が始まったのは2000年3月期の会計ビッグバンからです。それまでは、子会社を設立したらそこに社長を送り込んで、“マネジメントシステムは自分で考えろ”というやり方でやってきたわけです。逆に子会社としては、自社の売上・利益の最大化さえ出来れば、マネジメントは独自のやり方で良かった。まさに子会社個別最適で「子会社ガバナンスモデル」と言えます。このすごろくゲームの上がりは子会社の上場なわけですね。連結子会社の上場です。これは欧米企業の価値観ではあり得ない話です。
子会社ガバナンス、子会社最適化のやり方では、企業グループとしての企業価値の最大化につながらない場合が多い。グループ企業毎での勘定科目や決済条件の違い、あるいは会社ごとのキャッシュ管理、ITシステムの違いも連結経営では、企業活動の非効率化を招く。
「売上仕入の消去、債権債務の相殺などの会社間取引は部門間振替と考えるべき」と中澤さんは言う。グループをひとつの会社と見るなら、こうした会社間取引は自然な取組である。その際、経営資源の消費形態や消費目的をモニタリングする仕組みには統一された勘定科目が必須である。これに対する日本企業の実情に対しては、中澤さんは手厳しい。
日本では連結決算のため勘定科目を統一すると言った場合、実は連結パッケージへの入力段階で科目の統一を図っている事が多い。それだと経営管理の役には立たないのです。例えば、海外のすべての拠点で、旅費や交通費をどれぐらい使っているか、その他の販売管理費等がどのぐらい使われているかが元帳システムで瞬時に見ることが出来れば、意思決定もすごく迅速になりますし、販管費のコストダウンという活動にも大いに貢献するはずです。そのためには各社の元帳レベルで勘定科目の統一が必要なのです。グローバルに活動している欧米の会社はほとんどこのような考え方で経営を行っています。