アバナードは2000年にマイクロソフトとアクセンチュアが設立したデジタルマーケティング企業。現在グローバルで80拠点、23カ国で展開しており、売上は24億ドルに及ぶ。
今回、発表された「Technology Vison 2017」の中心的なメッセージは多くのビジネス領域でAIが重要な役割を果たすという「AIファースト」の考え方である。レポートでは、AIファーストの世界に対応するために以下の5つのテーマをあげている。
1. 新しいユーザーエクスペリエンス:AIベースのアシスタントやUIで操作を向上させる
2. 従業員の強化:AIで人間の能力を新たなレベルに引き上げる
3. プラットフォーム・エコノミー:新しいエコシステムから飛躍的に大きな価値を得る
4. DesignOps:デザイン思考により、生み出す成果をゼロから見直す
5. デジタル倫理: AI台頭による責任と二次的影響を明確に意識して未知のものに取り組む
CEOのアダム・ワービー氏が強調するのは、「マイクロソフト・エコシステム」によるイノベーションだ。最近では、マイクロソフトのクラウド「Azure」や、AR製品の「HoloLens」などを用い、製造業や医療、エネルギー分野などで実験的で革新的なプロジェクトに取り組んでいるという。
AIについても、マイクロソフトのコグニティブ・サービスとの連携を中心に考えている。
「AIに対して欧米では、人間の仕事を奪うなどの警戒や恐れがあります。われわれは、AIはIA(Intelligent Automation)=知性の自動化でもあると考えています」とワービー氏はいう。
自動化AIを完全に人間の知能を代替するものではなく、「従業員の強化」のために活用することを本レポートでアバナードは提案している。そこで重要視されているのが、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)だという。
RPAとは条件判断をしながらデータを収集・加工し自動入力やチェックをおこなう自動化ソリューションで、いわゆる学習や意味理解をおこなう高度なAIではなく、ルールベースの判断をベースにしたものである。ボットやマクロよりは高度で複数のアプリケーションにまたがってワークフローを構築することで、人間のオペレーション作業を大幅に改善・効率化する。このRPAによる定型業務の自動化で従業員の時間を増やし、働き方を変える可能性があるという。
次にアダム・ワービー氏が紹介するのは「DesignOps」である。システムの開発の方法としては近年、アジャイルやDevOpsといったチームによる迅速なフィードバックを主体として方法論が注目されている。
こうした方法を人間中心でスピーディに新しいアイデアによって創造する「デザイン思考」の原則と組み合わせ、デザイン主導型のエンジニアリング手法として提唱していくと語る。
「デジタル倫理」については、これまで以上に問題が浮上してくる。たとえば自動運転やAIでよく話題になる「トロッコ問題」、「自動運転の車が事故をおこしそうになったとき歩行者を守るべきか、運転手を守るべきか」などといった問いはこれまでは、思考実験的な話題にすぎなかったが、現在ではすでにAIの実装に際しての課題となってくる。
同じように、医療や消費行動のデータの分析、行動予測などもどこまでが許されるのかといった問題も、「デジタル倫理」の問題として浮上してくるとワービー氏は見解を示す。
たとえば、アバナードが最近取り組んでいるのは「ワークプレイス・アナリティクス」の領域。社員がどのようなメールをやりとりし、誰とどのような会話をしているかなどの分析にも取り組んでいる。しかし「そうした分析を公開すべきか、社員の評価にいかすべきか」はまだまだ検討されるべきだと語る。
こうした背景から、アバナードではデジタル倫理のフレームワークの作成の開始にも取り組んでいるという。また日本のアバナード株式会社の安間社長は、「少子高齢化、労働者人口が減少している日本だからこそ、AIの活用で一歩先にでるチャンスがあると考える。介護の現場や病院での電子カルテなどの問題を考える時、日本でもデジタル倫理に真剣に取り組む必要がある」と述べた。