パーソナルデータを適切に活用するために
パーソナルデータを匿名加工することで、合法的に活用できることが昨年の改正個人情報保護法の趣旨のひとつ。しかしながら、今のところ情報の「保護」の面が強調され、活用に向けた気運は高まっていない。
こう語るのは、先ごろまで内閣官房IT総合戦略室でIT利活用推進官を務めていた信朝裕行氏。信朝氏は、内閣官房のワーキンググループでの、パーソナルデータストア(PDS)、情報銀行、データ取引市場などの検討の内容を紹介した。
データそのものは、「個人情報を含むデータ」「匿名加工されたデータ」「個人の関わらないデータ」の3種類がある。
このうち、生産現場のIoT機器やセンサーから得られる「個人の関わらないデータ」、人の流れや商品情報で個人を特定出来ないように「匿名加工されたデータ」の利用には個人の同意はいらない。問題になるのは、移動、行動、購買履歴、属性などの個人情報を含むパーソナルデータだ。
このパーソナルデータをうまく活用できれば、社会やビジネスに対して大きな価値を生むこともできるし、個人にとっても適切な情報を得られるというメリットがある。
たとえば、観光客への質の高いサービス提供、資産の一元管理と最適な運用、健康増進や医療費削減のための情報、交通では混雑状況や天候に応じた最適なナビゲーションなど、より個人のニーズに合わせた的確な情報が得られる。
しかし、現在のように特定の事業者がパーソナルデータを収集する形では、事業者、個人の双方にリスクや制約がともなう。この問題の解決策として考えられるのが、PDSと情報銀行という仕組みだ。
ではこの形式は、現在のネットビジネスにおけるパーソナルデータの収集や活用などとどう違うのか?
最大のポイントは、個人が(自分自身で、ないしは事業者が収集して)クラウドなどに置かれた自分自身のデータを管理し、そのデータの活用を事業者に許諾する。つまり、パーソナルデータの主体をあくまで個人におくという点だ。
信朝氏の解説によれば、PDSは個人が自分のデータを蓄積・管理するための仕組み(技術)であり、第三者への提供に関するコントロールの仕組みを持つもの。情報銀行は、個人との契約によって個人代行してデータを蓄積・管理し、契約で定められた条件に応じて、これらのデータを他の事業者に提供する事業者。これらのデータをマッチングさせ売買などの取引をおこなうのが、データ取引市場だという。
この3つがうまく機能することで、日本のこれからのパーソナルデータの流通と活用における新たなエコシステムが可能になる。データ流通の主体を個人に置くことで、データ活用に関する躊躇や不信を払拭していきたいというのが信朝氏の考えだ。
PDSで重要なことは、第三者へデータを渡す機能。“私の情報を他社に渡してください”といった時に、データを移管できる仕組みを持っていることです。情報銀行は個人に代わって事業者への情報の提供を判断するもの。たとえば車の走行データを損害保険の会社に提供して欲しいときは、情報銀行が多数ある損害保険の条件を査定し、妥当な会社を選ぶというような使い方が想定できます。(信朝氏)