「TMT Predictions 2017 日本版」のトピックスと概要は次のとおり。
1. 生体認証:2017年中に数十億台のデバイスに搭載
モバイル端末1台あたりでロック解除・認証などで1日平均30回以上の利用が見込まれるインドでは国民の身元確認制度に生体認証を使用し、既に10億人以上が登録している日本も生体認証利用率が高く、エレクトロニクス産業メーカーの技術力が業界をリードする。
2. DDoS攻撃(Distributed Denial-of-Service):テラビット/秒規模に突入
DDoS攻撃の影響拡大の第一の要因は、ビデオカメラからルーター、家電製品まで、セキュアでない(悪意ある第三者に乗っ取られるレベルの脆弱性を持つ)IoT接続デバイスの増加にある。
日本では、デバイスのサイバーセキュリティ対策に対する法規制が不十分な状況にあるIoTデバイスを輸出する日本の機器メーカーは、諸外国の法規制に基づくサイバーセキュリティおよびプライバシーの要求水準を把握する必要がある。
3. 自動緊急ブレーキ(AEB、自動車向け):新車への標準装備が進む
米国自動車メーカー20社はAEBに関する自主協定を締結しており、米国の新車のほぼ100%が2022年までにAEBを搭載するAEB(および自動運転関連領域)はエレクトロニクス/ソフトウエアをベースとする技術であり、従来のメカニカルな技術を中心としたすり合わせ力を競う自動車業界の競争原理を破壊する可能性があり、エレクトロニクス業界各社にとっては、自動車ビジネスのコア領域への参入の好機となる。
4. 5G:2017年は商用化に向けた第一歩
5Gは未だ批准された国際標準規格がない中、2017年は十数社の事業者がサービスの試験や開発を開始し、「先頭集団」が決まる年となる。
日本国内でも大手通信キャリアによる5G関連の投資拡大が見込まれる中、大手電機メーカーやシステムベンダー、さらにはスマートハウス/スマートシティ、医療、小売、交通、エンターテインメント(動画配信やゲーム等)といった、5Gの技術を活用できる幅広い分野のプレーヤーにもビジネスチャンスが広がる。
5. 機械学習:モバイル端末への搭載が加速
2017年に販売されるスマートフォン台数の5分の1以上に当たる3億台以上が、ニューラルネットワークによる機械学習機能を内蔵する。AI領域における主導権争いはまだ始まったばかりだがすでに海外の大手プレーヤーが、自社を中心としたエコシステムの形成を狙っている。
日本企業は自社が差別化できる応用領域を見極めた上で、AIについての技術戦略を確立することが課題となる。
6. 屋内ナビゲーション:ナビゲーションの最後のフロンティア
2022年の時点でデジタルナビゲーション(人間と機械が利用するものの双方を含む)の4分の1以上が屋内の移動区間を含むものか、または完全な屋内移動用のものになる。精密な屋内ナビゲーションの潜在力は大きく、小売店、娯楽施設、旅行、ビジネス施設、展示会、携帯ゲームあるいは緊急通報など、さまざまな場面やサービスで活用できる。
実現に当たっては、技術先行での考え方ではなく、利用する顧客、生活者の体験をデザインし、その上で顧客体験を実現できるプロセスとシステムの在り方を考えることが重要になる。
7. テレビ広告:媒体としての価値は継続
積極的な広告販売や、視聴者のテレビ視聴時間がほぼ減少していないことなどが背景に、2017年の米国のテレビ広告収入は2016年と変わらず横ばいになる。デジタル広告の成長率が維持されると仮定すると、テレビメディア広告費とデジタル広告費の割合は、日本でも米国に数年遅れて逆転する可能性がある。
テレビ広告は、より広い層の認知度を高めたいナショナルブランド等に継続して有効な手段として活用される一方で、ターゲティングの精度を高めたい事業者がデジタル広告に移行するというように、広告媒体としての使い分けがさらに進んでいく。
8. タブレット:もうピークを迎えたか?
2017年のタブレット端末の売上台数は、前年度の1億8,200万台に比べ約10%減少し1億6,500万台に届かない。日本は他国と比較してタブレットだけでなく、スマートフォンを含めた全体的なデバイスの所有率が低い。日本における今後のタブレット市場は、教育向けなど法人市場における特定用途に下支えされて、横ばいで推移していく見込みである。
9. アナログレコード:ノスタルジックでニッチな市場
著しい復活を見せ、市場が世界全体で10億ドルに迫ろうとしているレコードの人気は今後も続く。日本においても、2010年を境にアナログレコード市場が回復基調にある。
レコードの復権は、コンテンツの流通が全てデジタル化するのではなく、一定程度は「手に取れる商品」の消費も継続されることを示しており、メディア産業がデジタル時代の「商品」の展開を検討する上でのヒントになる。
10. ITaaS:中小企業から大企業へ普及が進む
2018年末までにデータセンター、ソフトウエア、サービス向けの「IT-as-a-Service(ITaaS)」に費やされる支出は2016年と比較して50%以上増加し、世界全体で5,500億ドル弱になる。
日本でもSMB(Small and Medium Business)向けのクラウドベースのIT利用は拡大する。今後、これまで以上にITに関連する選択肢(種類・契約形態など)が複雑化することが想定され、導入・更新を検討する企業は、自社の状況を客観的に分析し、コストだけでなく、業務効率性や安定/安全性に加え、自社ビジネスへの貢献度といった観点も踏まえて自社に最適なITインフラを導入する必要がある。