テクノロジーがこれまでの10年で変えてきたもの、これからの10年で変えていくもの
まだGoogleもAmazonもぎりぎりスタートアップと呼ばれていた十数年前、私が新卒で入社したセールスフォース・ドットコムは、買い取り型のソフトウェアからクラウドサービスへ移行する流れを「ソフトウェアの民主化」と呼び、誰もが高度なコンピューティングのパワーをどこでも利用できる時代への世界的なシフトを牽引していた。
私が入社した頃は、誰かが顧客に電話をかけて「馬の営業」だと間違えられたみたいな、小さな企業によくあるエピソードがたくさんあった。しかし今や世界から注目される最も先進的な企業である。あの頃とは隔世のように感じる。
ほんの10年前には出来なかったことが今やあたり前になったことがたくさんある。誰もがスマートフォンを持ち、オフィスにとどまらずビジネスの様々なシーンで“呼吸するかのように”ITを活用している。インターネット上には様々なアプリケーションが溢れ、個人でも中小企業でも、信じられないくらいの低コストで最先端のテクノロジーの恩恵に与ることが出来できるようになった。
そう、当時夢見ていた世界が、たった10年と少しで実現しているのだ。今、私は20名くらいの小さな事務所に勤めているが、社内はすべてクラウドで管理され、大企業に引けを取らない情報共有とセキュリティ環境が不自由なく実現できる。これは本当に素晴らしいことだと思う。
では、次の10年はどうだろうか。2016年10月に開催された米誌Vanity Fair主催の「ニュー・エスタブリッシュメント・サミット」で、Google Xの創設者セバスチャン・スランは、75%の仕事が同じ作業を繰り返す作業だとし、その繰り返しをなくすことが彼の目的だと語った。そして、人々は単純労働から開放され自由になるのだと言った。*1
おそらく普段気がつかないレベルで、すでにテクノロジーは単純な繰り返しの労働や大量の情報の計算や保存や共有、伝達、一部の意思決定に関わる仕事を自動化し、我々の働き方に少なからず影響を与えているのだが、最近、ゴールドマン・サックスのニューヨーク本社のトレーダー600人が、AIと200人のシステムエンジニアに置き換わったというニュース*2を見た。彼らのような高額の報酬が得られる仕事をしていた人が、テクノロジーに仕事を奪われてしまったという話は、これからの社会を推測するにあたってなかなかに刺激的である。