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「なぜペット型ロボットは人の心を癒やすのか」精神科医とゲームAI作者が語る「オープンダイアローグとAI」の可能性

ななめの学校:ダイアゴナルラーン 第二回

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 心理療法では、患者(クライアント)の言葉を徹底的に聴くことが治療の鍵となる。だとしたらカウンセリングにAIは活かせないだろうか?また最近注目されている「オープンダイアローグ」という対話の療法との関係は?ゲームAI作者の森川さんと精神科医の山登さんが語った。

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 東京・八重洲にあるコワーキングスペース「DIAGONAL RUN」で開催されている「ななめの学校/DIAGONAL LEARN」。各ジャンルを「横断」ではなく「斜めにつなぐ」というコンセプトで毎回ユニークな登壇者を招いて開催している。
今回は、ゲームAIのクリエイター森川幸人さんと精神科医の山登敬之さんによる「人の心とAI」についてのトーク。司会は(株)BLUEとGREENコピーライター/クリエイティブディレクターの中村直史さん。

 森川さんが紹介したのは1966年の対話型プログラムの「イライザ」(ELIZA)。映画『マイ・フェア・レディ』の原作「ピグマリオン」の主人公の名前からとったこのプログラムは、最近のAIスピーカーやチャットボットの原型といえる。そこから「対話」や「聴くこと」のカウンセリング効果について話が及んだ。

人工無脳「イライザ」からチャットボットへ──何が進化したのか

森川 これが「イライザ」という会話形のチャットボット。今でこそチャットボットと言いますが、ちょっと前は「人工無脳」なんて呼んでました。最初に出来た対話型のソフトなんです。1960年代なので、グラフィックはなくて全部テキストベースですが、ユーザーの問いに対して、イライザが答えてくれる。
よくよく読めば、ユーザーが聞いたことを疑問形にして言い換えてるだけで、今ではさすがにこれはAIとは呼ばずに、「自然言語処理プログラム」と言っています。でも当時はパソコンの普及のずっと前だったので、コンピュータがこんなことが出来るなんてすごいと思ったわけです。「2001年宇宙の旅」みたいなすごい知能に思えて、どはまりする人が続出したんです。

イライザ(ELIZA)

中村 1966年って、50年以上前ですよ。

森川 この最初に作られた対話型が、精神科医というかカウンセラーだったというのが興味深いですよね。

中村 このことは、精神科医の方たちはみんな知っているんですか?

山登 いや、知ってる人は少ないでしょう。カウンセリングについては精神科医よりは、心理療法家というか臨床心理士の方が詳しいと思います。クライアントのお話を、ただ「聴く」というのは「来談者中心療法」といって、どちらかといえば古典的なカウンセリングの方法です。

「聴く」だけでなぜ治るのか?

中村 あの、素朴な疑問ですが、「こうしなさい」という答えを出さずに、話を聞いてあげるだけで、どうして回復するんですか?

山登 もちろん「物足りない」とか、「何も言ってくれない」とか、「話し聴くだけじゃないか」と言ってカウンセリングに通わなくなる人もいるんだけど、やっぱり他者は「自分の鏡」ですから、話しているうちにだんだん答えが見つかってくる、そういう効果は確かにあるんです。

中村 それが昔から不思議だったんです。

山登 答えは自分の中にあるんです。それを引き出せるかどうかは、聴き方次第だと思います。そのやり取りの中で、見つかるか、見つからないかというのは、精神科医や心理士、こっち側の腕次第じゃないですかね。

森川 その話を知った時に、薬に頼らずに人と話をするだけで治っていくことがあるとしたら、ひょっとしたらAIの出番があるかもしれないと思ったわけです。当時、AIとは思ってなかったけど、ゲームとか、エンタメの世界でお役に立てるんじゃないかなと思って、何回か山登さんに相談したんです。

中村 なるほど、たとえばプレステから「スーパー心理療法君」というゲームが出るみたいなことですよね。

森川 それを狙ってたんです。ところが「ゲームではそっちに触るな」というお達しがあって出来なかった。

(会場笑)

 森川さんと山登さんは、マイクロソフトの女子高生チャットボット「りんな」との会話例や、AppleのSiriとの対話例を紹介。機械学習などの先端の技術とはいえ、返答のレベルはイライザの時代から50年たった現在も、それほど進化していないと2人は語る。「あの話、どうなった?」という曖昧な言葉には機械は対応できない。
話題はふたたびAIとのコミュニケーションによる治療から、「オープンダイアローグ」について話が展開した。フィンランドの西ラップランドという地区のケロプダス病院で実践されている治療法だ。


中村 「人は言葉で治せるか」という問いがありますね。

森川 なぜ人は言葉だけで治るのかということが気になります。

山登 「言葉で治す」というと、気の利いたアドバイスをするとか、深遠なことを言うと思われがちですが、そうではなくて「対話」なんです。人と「話すこと」自体、対話によって病気が治る。「治す」というより勝手に「治る」感じだそうです。

中村 関係性みたいなもの?

山登 もちろんそれもあって、人との間でやりとりされる言葉とか、その人の体験から生まれてくる言葉とか。その人を治してあげようと思って話すのではなくて、自分のことを話しているだけでも、その人が感じるものがあるんですよね。

中村 僕も若い頃にパニック障害になってカウンセラーに通ってたんです。そのせいかどうか回復したんです。だけど自分の中で何が起こっていたのか、全く自分では説明できないんですよね。たぶん会話をしたことが良かったんでしょうけど。それで、この間「オープンダイアローグ」の話を聞いて関心を持ったんです。このオープンダイアローグ、どんどん普及しているんでしょうか?

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