チームスピリット荻島社長に聞く サブスクビジネスの収益モデル

 会員化による継続課金によって定期収入を図るサブスクリプションビジネスが台頭してきた。勤怠管理や工数管理、経費精算、会計など、企業の間接業務を支援するクラウドサービスのベンチャー企業が元気だ。今年4月に施行された「働き方改革」の法案の影響もある。そんな中、昨年上場を果たし、「働き方改革プラットフォーム」を提供しているチームスピリットの荻島社長に話を聞いた。

[公開日]

[取材・構成] 京部康男 (Biz/Zine編集部)

[タグ] サブスクリプション SaaS

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サブスクは簡単にはスケールしない

株式会社チームスピリット 代表取締役社長 荻島 浩司

──サブスクリプションという言葉が浸透してきました。少し前までは 「BtoB の IT はスケールしない」といわれていたのに、ここへきて「GAFAの次はサブスク」という気運です。荻島社長はこの状況をどのようにご覧になりますか?

荻島: 上場前に機関投資家の方にビジネスを説明していた頃は、なかなか伝わりにくかった。それがこの一年でずいぶん変わりましたね。以前は、「生命保険とか新聞などは昔からやっている。ITもリースやレンタルによる契約スタイルがすでにあるではないか」、SaaSについては「インターネットで利用できる業務システムは数多くある」といった反応だったと思います。それが昨年ぐらいからその二つが組み合わされて「SaaS元年」と騒がれだしました。ようやく「サブスク、SaaSは儲かる」という認知が広まったのでしょう。

 でもサブスクリプションって、簡単にはスケールしないのですよ。

──簡単には儲からない?

荻島: 時間がかかるのです。初期の段階では、単年度の売上げというのはすごく小さくなります。

 たとえば、5年間利用するサービスを1億円で受注した場合、サブスクリプションだと、単純計算で、初年度の売上げは2千万円にしかならない。1億円の売上げになるには5年かかります。一括受注型のITビジネスに比べて、売上の成長は遅くみえます。しかし一括受注型のITビジネスは売上の獲得に比例してリソースを増やさなければならないのに対し、サブスクリプションでは前年までの売上がそのまま継続するため、一定のリソースでも着実な成長が見込めます。そのため一旦スケールし始めると止まらないということになります。

 つまり、今サブスクリプションで成果をあげている会社というのは、5年ぐらい前からやっていて、5年前が元年なのです。逆に言えば、これからサブスクリプションを始める会社は、最初の数年は赤字覚悟です。そうした会社が最近、日本でもようやく成長してきて、市場関係者の目にとまるようになったということでしょう。

売上げはピラミッド構造からはじまる

──一括受注ではなく段階的に売上げがたつという意味では、従来のライセンス契約も同じでは?

荻島: パッケージソフトなど従来のライセンス契約は購入時に一括で代金をいただき、原則として期限無く使用権許諾が行われるので、バージョンアップ時にバージョンアップ費用をいただくまでは段階的な売上になりません。

 その違いを説明するために、サブスクリプションの売上げモデルを、細かく見ていきましょう。

 例えば月100万円で年間の利用料が1,200万円のサービスをお客様に提供して、これを1年間の前払いでお支払いいただくとします。入金金額は1200万円ですね。この年間1200万円の製品・サービスを頑張って、毎月受注するとします。

月額100万円(MRR)x 12ヶ月契約 =年間利用料1200万円を毎月受注し1年分先払いで入金した場合:
初月の売上げ100万円+前受金1100万円

 この場合、最初の1ヶ月は100万円の売上げになり、すでに1200万円入金されているのですが、残りの11ヵ月分は「前受金」になるのです。次の月も同様に受注し、1200万円の入金があるとします。売上げは200万円になり、前受金は前月の分が1000万円、当月分の1100万円となり、合計2100万円になります。

2ヶ月目は売上げ200万円+前受金2100万円

 これを1年間続けた場合、1年間の入金額は、1億4400万円になります。売上げはこのような三角形になり、売上げは7800万円。前受金額は6600万円でとなり、約半分しか売上げにならない。これが初年度の売上げ構造です。このようにサブスクリプションの初年度は、受注金額に対して、売上げがすごく小さく見えるのです。

売上げ7800万円+前受金6600万円(入金額は1億4400万円)

 ところが次の年になると、この三角形が契約更新になります。2年目も同じように受注した場合、売上げはトータルで1億4400万円になる。

 この図の薄い青の部分の初年の三角形が、2年目は継続のライセンスと新規の売上げが合体して四角形になる。一部の解約を考慮しなければ、売上げは約2倍になります。

契約更新で2年目PL売上げ1億4400万円

 もし従来型の一括受注モデルでこれだけ受注していたとしたら、最初の数年の売上げは、数倍になっているはずです。サブスクリプションの場合は、最初の数年は売上げが小さく見える。

 しかし、これを数年間継続できれば、前年まで蓄積したライセンスが自動的に売上に変わり、しかも投入するリソースは理論的には当年度の新規ライセンスを獲得するだけあれば良いので。この段階まででくれば、安定と成長を同時に実現できるのです。

 さらにこの段階までくれば、後発に対する参入障壁を築くことが可能になります。

 それは、機能のアップデートでサービスの価値が高まることです。収益と同じく、サービスの機能も強化されバージョンアップしていくので、2年め、3年め、4年めの方が優位になります。後発の会社は売上げ的にも上がるまでは大変ですし、先行企業はどんどんサービスの機能を強化していくので追いつくのも難しく、差はどんどん開いていく。一人勝ちをするモデルだとも言えます。

ARR(Annual Recurring Revenue ):
前年度の月次収益の12ヶ月☓90%(10%の解約として)に追加ライセンス、新規ライセンスとサポートが加わり収益は拡大、機能が向上することで満足度もさらに向上

 われわれは去年7年目で上場できたのですが、上場するということは利益を出せるような状況になったということです。その期間の成長が実って、基盤が確立したということが言えると思います。

 だけどこれは日本の市場の話であって、米国のSalesforce は、すでに20年前からこれをやっているわけですから強いのはあたりまえですね。

──クラウドというのは、売上げが座布団のように積み上がっていくというイメージはありましたが、こうしてみると最初の数年が苦しくて、続けると成長が飛躍的になるということですね。

荻島: もうひとつは、価格の設定です。大企業だけではなく、中堅・中小の会社に導入いただこうとすると、価格が違ってきます。

 従来の大企業向けのソリューションのように数千万、数億円という見積もりではなく、従業員一人がある期間使った場合いくらが妥当かという費用の考え方になります。

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