「プロセスよりも文化」を優先するのが「考える組織」
本書のもう一つの大きな主張は、「プロセスよりも文化」を優先すべきということです。「考える組織」を実践するためには、堅いプロセスをルールとして策定するよりも、社員がはみ出ない程度の枠としての文化をつくるべきという主張です。
本書では組織文化を殺す5つの要因として、
- 権限は与えるが、行動は起こさせない
- リーダーが人ではなく、プロセスに目を向けている
- ミーティングへの過剰な依存
- ビジョンの欠如
- マネジメントが一方的に裁決を下す
といったものが挙げられています。
どうでしょうか、5.はどちらかと言えばアメリカ型組織の特徴かもしれませんが、1?4に関しては日本企業にも当てはまるところがあるのではないでしょうか。
私が過去、組織のマネジメントをされている方々にお話を伺うなかで、多くの方が指摘されていたのは、特に最近日本企業においてこうした“硬直的なプロセス化”が進んでいるようだということです。多くのマネジメント層の方々は口をそろえて「昔はもっと自由でやりたいことができた」とおっしゃいます。
ここには大きな示唆があるのではないでしょうか。すなわち、日本企業、なかでも戦後大きな成長期を迎えた企業は、どこも組織としての振る舞いが若く、時としてやんちゃなくらいでした。一方で、そうした企業であっても安定成長の段階に入ると、組織も巨大になりガバナンスを強化する一方で、組織の硬直化が進んでいったと考えられます。
現在マネジメントを担われている方々は、まさにご自身が若い時期に、「ワイガヤ」というような言葉に代表される自発的で創造性にあふれる組織文化を経験されていたのではないでしょうか。まさにこれは本書の著者が「プロセスよりも文化」と指摘している状態にあったのではないかと推測されるのです。
皮肉なことに、組織や事業が大きくなるにつれ必然的に発生することとして、日本企業においても文化よりもプロセスが重視されるようになってしまったものと考えられます。しかし、これは日本企業に特殊なことではありません。本書の著者が対峙するアメリカ企業においても、イノベーションという課題に対して、組織の硬直化が邪魔になっているのです。
さて、重要なことは、ではどうすればこの状況を打開することができるのか?ということです。著者はその答えの一つとして、企業に入り込んでコンサルティングや研修を行い、それを生業にしています。
たとえば、「会社をつぶせ」というワークショップは、競合の立場になって自社を文字通り潰させるためのアイデアをいろいろ考えてみようというものです。これは逆の立場になることで、自社がイノベーションを生み出せない組織的な弱点について気づくという効果を狙ったものです。
もう一つの例は、「ばかげたルールをつぶせ」というセッションです。このセッションでは組織にある無数のルールや習慣をもう一度見直し、それがイノベーションを阻害しているようであれば破棄しようというものです。
こうしたワークセッションを組織内で丹念に行っていくことで、組織としての“行動のクセ”を変革していこうというアプローチです。