「2020 Global Marketing Trends」の日本版にあたっては、日本企業への示唆と解説をデロイト デジタル ジャパン Deputy Leadの熊見成浩氏がまとめた「日本の視点」を加えられている。このレポートは、ビッグデータやスマートデバイス、AIなどの活用が進む、かつてないデジタル技術革新の時代において、CMO(Chief Marketing Officer)をはじめ、経営者やマーケター、企業の組織全体がどのような認識をもってブランド構築に資するマーケティング戦略の策定・実行をすべきかをまとめている。特に、デジタル全盛の時代ゆえに、消費者がより本質を求め、人とのつながりを求めるようになっていることに鑑み、企業が「人間」を中心に据えた戦略を策定するためのガイドラインとなることを目的に置いているのだという。
「2020 Global Marketing Trends」が「人間」を中心においた戦略におけるキートレンドとして挙げたのは「目的(Purpose)」「人間としての経験(Human Experience)」「融合(Fusion)」「信頼(Trust)」「参加(Participation)」「人財(Talent)」「アジャイル(Agility)」の7つ。特に冒頭に掲げる「目的」はブランドの根本をなすものであり、組織全体にあらゆる戦略を浸透させるためにこれまで以上に重要なテーマになってきている、と位置付けている。また、「人間としての経験」は、共通の「目的」のもとブランドと顧客、従業員、ビジネスパートナーをつなげ、企業がより高いブランド価値を実現するために必要なものとして位置付けてられている。
7つのトレンドにおけるメッセージ
1.目的(Purpose)
目的がすべてである
組織にとっては目的がすべての基盤。それは「なぜ企業が存在するのか?」という極めてシンプルな問いの答えとなる。目的を中心に据え、目的に基づいて行動する「目的主導型」の企業こそが、長期的なロイヤルティを築き、顧客の一生とより深い関係性を持つことができる。その際には、企業が目的のオーセンティシティ(真正性)を保つことが極めて重要となる。
2. 人間としての経験(Human Experience)
「経験負債」を返済する
自動化やAIといった技術革新にかかわらず、人と人とのつながりの本質的なものはテクノロジーに取って代わられることはない。急速なデジタル化が進む今こそ、企業は人間としての経験を高めるための取り組みを進め、デジタル化で意図せず積み上げられた「経験負債」を返済することが求められる。
3.融合(Fusion)
融合がビジネスの境界線を溶かす
コネクテッド技術や人財の流動化により、従来の業界間の境界線は消失しつつあり、異業種同士の参入障壁は従来よりも低くなっている。新たなパートナーシップの成功を収めている企業は、型にはまらず、従来の業界のサイロをうまく突破している。自社の強みを構築し直し、新たなパートナーの力を借りることにより、企業は長期的かつ効果的に顧客のニーズに応えるための解決策を生み出すことができる。
4.信頼(Trust)
あなたは信頼を壊す人か、築く人か
デジタルトランスフォーメーションにより、組織が信頼について考慮すべき項目が変化している。企業は、顧客データをサイバー攻撃やデータ誤用から守り、信頼を保持する組織体制を整える必要がある。マーケターは、マーケティング部門に特に関連の深い顧客データおよびAIという2つの領域にフォーカスし、組織の信頼を脅かすことなくテクノロジーが活用されることを保証しなくてはならない。
5.参加(Participation)
消費者参加の拡大
参加とは、インフルエンサーに代表されるように、消費者がブランドの“媒体”となり、ブランドの支持者としてその力を発揮することを意味している。デロイトのフレームワークにおける参加の最上段階では、顧客はブランドの一員として行動するようになる。
6.人財(Talent)
“最も重要な資産”を活用する
従業員は最高のアンバサダーになり得る。そのためには、従業員が異なるバックグラウンドと多様性を有する“人財”であることに企業がいち早く気づくことが重要となる。従業員を尊重する組織は、人間を企業活動の中心に据えている。顧客エンゲージメントの手法を理解したマーケターの多くが、従業員とのより意味深いエンゲージメントを作り出すための挑戦を始めている。
7.アジャイル(Agility)
組織全体のアジャイル化に向けて
今日の複雑かつ要求レベルの高い市場で優位性を生み出すために、ブランドはよりアジャイルに自社のマーケティング機能を再構築しなければならない。リアルタイムにデータを活用し、瞬時に分析することで、顧客によりパーソナルな経験を提供することが求められている。本文ではマーケティング機能に有効な「ニュースルームスタイル」や「If/then」思考といったアジャイル手法をいくつか紹介している。
日本の視点:日本企業へのメッセージ
「日本の視点」では、特に重要な第1章の「目的」と第2章「人間としての経験」の連動性に重点を置き、なぜ今あらためて目的が重要なのか、目的を体現させるために何が重要なのか、他のトレンドとの関係性について見解を述べられている。さらに第2章「人間としての経験」の創り方においては、世界的なブランド企業、数百年続く老舗企業、テクノロジーを駆使し熱い支持を受けている海外企業等、多くの取り組みから、日本企業に必要な4つの要素を提示している。
- まず本物を創る:デジタル化により情報が世界中に素早く、かつターゲットに到達可能な現代においては、その企業の存在意義がしっかりと体現された形で「プロダクト(サービス)が本物」であることが前提となる。
- 本物を顧客体験のすべてに宿す:創り手の情熱や技術の高さをプロダクト(サービス)へ落とし込むことはもとより、顧客体験におけるすべての体験を本物に昇華させる必要がある。
- テクノロジーを活用して、人間中心的解像度を上げる:本物を創るためには、人間の根源的欲求を深く理解すること、つまり顧客体験を細かい粒度で理解・設計できる解像度の高さが鍵となる。デジタル技術が高度化した今だからこそ、テクノロジーを駆使した高い次元での実装が求められる。
- データドリブン型意思決定を行う:人間中心的解像度が上がるほど、一般的な理解は難しくなり、調和が重視されることが多い日本企業では意思決定が困難となる。だからこそ、データドリブン型意思決定を採用し、社内説得に定量的なデータを活用するべきだ。
なお、「日本の視点」においては、7つのトレンドの関係性について、以下の図のフレームワークで整理している。