本書で解説される「アサンプションマップ」を併用することで、仮説のリスクを明らかにし、検証の優先順位をつけることも可能になります。
アイデアの根底にある仮説を特定する
ビジネスアイデアを検証するには、アイデアの実現を阻むリスクを明らかにしなければなりません。それにはまず、アイデアの根底にある前提を検証可能な仮説に変える必要があります。
最初に検証すべき仮説を決めるには、2つの問いかけが必要になります。1つ目は「アイデアが機能するために真(true)でなければならない最重要の仮説はどれか?」であり、2つ目は「具体的なエビデンスが欠けている仮説はどれか?」です。
仮説の定義
仮説(hypothesis)の語源は、古代ギリシャ語のhupothesisで、「下支えする」という意味です。仮説のことを「知識に基づく推測」と言うこともあります。仮説とは、仮定を証明または反証するための手段です。
本書では、ビジネス仮説を以下のように定義しています。
- 価値提案、ビジネスモデル、ビジネス戦略の基礎になっている前提。
- ビジネスアイデアが有効かどうかを理解するために知る必要があること。
よいビジネス仮説を生み出す
ビジネスアイデアに対して真だと思う仮説を生み出すときは、「……と思う」というフレーズを書くことから始めましょう。
「ミレニアル世代の親は、子供のために『キット付き科学雑誌』を定期購読すると思う」
ただし、「……と思う」という形式ですべての仮説を立てると、確証バイアスの罠に陥る危険性があります。つまり、自分の考えに反論する代わりに、絶えず正しさを証明するようになるのです。これを回避するには、自分の思い込みが誤りであることを証明する仮説をいくつか立てましょう。
「ミレニアル世代の親は、子供のために『キット付き科学雑誌』を定期購読しないと思う」
どの仮説を検証すべきかについてチームの意見がまとまらないときは、このような矛盾した仮説を同時に検証してみましょう。
よい仮説の特徴
しっかりと構築されたビジネス仮説は、検証可能であり、正確であり、単独で成立します。その点を踏まえ、「キット付き科学雑誌」の販売についての仮説を洗練していきましょう。
検証可能である
仮説が、エビデンス(および経験)に基づいて、真(有効)あるいは偽(無効)であることを示せる場合、その仮説は検証可能だと言えます。
× ミレニアル世代の親は、工作雑誌のほうを選ぶと思う。
○ ミレニアル世代の親は、子供の教育レベルに合った科学雑誌のほうを選ぶと思う。
正確である
成功のイメージが浮かぶ場合、その仮説は正確だと言えます。「何」「誰」「いつ」がはっきりしている仮説が望ましいです。
× ミレニアル世代の親は、「キット付き科学雑誌」に多くのお金を払うと思う。
○ 5~9歳の子供を持つミレニアル世代の親は、子供の教育レベルに合った「キット付き科学雑誌」に毎月15ドル払うと思う。
単独で成立する
調べたいことが、検証可能かつ正確なたった1つの事柄であれば、その仮説は単独で成立すると言えます。
× 「キット付き科学雑誌」を仕入れ、利益を上乗せして売れると思う。
○ 「キット付き科学雑誌」を1セットあたり3ドル未満で仕入れることができると思う。
○ 「キット付き科学雑誌」を1セットあたり5ドル未満で国内販売できると思う。
【市場のリスク】魅力性の仮説:最初に調査する
バリュー・プロポジション・キャンバスには、バリューマップと顧客プロフィールにおける市場のリスクが含まれます。魅力性の仮説は、以下のように特定します。
顧客プロフィール
- 私たちは、顧客にとって重要なジョブに取り組んでいると思う。
- 私たちは、顧客にとって重要なペインにフォーカスしていると思う。
- 私たちは、顧客にとって重要なゲインにフォーカスしていると思う。
バリューマップ
- 私たちの製品やサービスは、高価値のジョブを解決すると思う。
- 私たちの製品やサービスは、深刻なペインを軽減すると思う。
- 私たちの製品やサービスは、重要なゲインを生み出すと思う。
ビジネスモデル・キャンバスには、価値提案、顧客セグメント、チャネル、顧客との関係における市場のリスクが含まれます。魅力性の仮説は、以下のように特定します。
顧客セグメント
- 私たちは、適切な顧客セグメントをターゲットにしていると思う。
- 私たちがターゲットにしているセグメントは、現実に存在していると思う。
- 私たちがターゲットにしているセグメントは、十分な規模があると思う。
チャネル
- 私たちは、顧客を獲得するための適切なチャネルを持っていると思う。
- 私たちは、価値を提供するために、そのチャネルを使いこなせると思う。
価値提案
- 私たちは、ターゲットにしている顧客セグメントに対して、適切な価値提案を持っていると思う。
- 私たちの価値提案には独自性があると思う。
顧客との関係
- 私たちは、顧客との適切な関係を構築できると思う。
- 顧客が他社の製品に切り替えることは難しいと思う。
- 私たちは、顧客を維持できると思う。
【インフラのリスク】実現可能性の仮説:2番目に調査する
ビジネスモデル・キャンバスには、キーパートナー、主な活動、主なリソースにおけるインフラのリスクが含まれます。実現可能性の仮説は、以下のように特定します。
ビジネスモデル・キャンバスには、キーパートナー、主な活動、主なリソースにおけるインフラのリスクが含まれます。実現可能性の仮説は、以下のように特定します。
主な活動
- 私たちは、ビジネスモデルの構築で求められる適切な品質水準で、すべての活動を大きな規模で実施できると思う。
主なリソース
- 私たちは、ビジネスモデルの構築で必要なテクノロジーとリソース(知的財産、人材、資金など)を大きな規模で確保し、管理できると思う。
キーパートナー
- 私たちは、ビジネスの構築で必要な協力関係を生み出せると思う。
【金銭的なリスク】存続可能性の仮説:3番目に調査する
ビジネスモデル・キャンバスには、収入の流れとコスト構造における金銭的なリスクが含まれます。存続可能性の仮説は、以下のように特定します。
収入の流れ
- 私たちは、価値提案に一定の対価を支払う顧客を獲得できると思う。
- 私たちは、十分な収益を生み出せると思う。
コスト構造
- 私たちは、インフラから生じるコストを管理・抑制できると思う。
利益
- 私たちは、費用よりも多い収益を生み出して、利益を上げられると思う。