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社会課題解消ビジネスのマネタイズをどう設計すべきか──3つのパターンを解説【書籍抜粋】

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 社会課題を解消するビジネスの最大の課題はマネタイズです。なぜなら、顧客がサービスに支払いうる金額が小さくなりがちで、しかもサービスの運営には多額のコストがかかるため、そのバランスが成り立ちにくいからです。大義や理想ではどうにならない以上、マネタイズの設計は通常のビジネスよりも綿密でなければなりません。今回は書籍『3つのステップで成功!社会課題で新規事業をつくる』(翔泳社)から、社会課題解消ビジネスのマネタイズを検討するうえで参考になる3つのパターンを解説します。

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 本記事は『3つのステップで成功!社会課題で新規事業をつくる 「ソーシャル×テクノロジー」で生まれるビッグチャンス』(著者:EYストラテジー・アンド・コンサルティング)の「第9章 ステップ2検討事項(5)社会課題のポテンシャルを引き出すビジネスモデルをつくる」から抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。

マネタイズの3パターン

 通常のビジネスの場合、サービスを利用するユーザーを特定しやすい一方で、社会課題解消ビジネスでは、複数のステークホルダーが関わる広範な課題を解消する必要がある。

 また、社会課題の当事者に経済力(投資余力や資金力)がある場合は、直接課金できるので問題ないが、経済力がない場合は、「誰からマネタイズするか」を検討するビジネスモデルがさらに重要となる。

 そのため、全てのステークホルダーを棚卸し、因果構造を整理して、解決の担い手、つまりサービスの購入者を特定する必要があった。このビジネスモデル検討においても、様々なステークホルダーの中で、「誰からどのように収益を上げるのか」を設計する必要がある。

 他方、社会課題解消ビジネスでは、「顧客がサービスに支払い得る金額の規模」と「サービスの展開・運営にかかるコスト」のバランスが成り立ちにくい。これはなぜなのか。

 まず、「顧客がサービスに支払い得る金額の規模」が小さくなりがちだからだ。

 例えば、高齢化に伴う医療費の増大や気候変動による経済的損失は、社会全体に広範な影響を及ぼす国家レベルの規模だ。しかしこれらの影響を受けるステークホルダーは当然多岐にわたるため、個々の単位で見ると社会的損失の規模は相対的に小さくなる。

 加えて「社会課題解消のためのコストを誰が負担すべきか」については、国家が負担すべきか、企業が負担すべきか、国民が広く負担すべきかなど、課題の大小を問わず明確ではない。

 結果、サービスに支払っても良いと思う金額、すなわち各ステークホルダーが課題解消のために支払える金額は小さくなる傾向にある。

 一方で、「サービスの展開・運営にかかるコスト」は高くなりがちだ。

 様々なステークホルダーが関わる社会課題解消ビジネスは、投資額も大きい。当然、顧客開拓だけでなく顧客維持にかかるコストも膨らむ。

 以上により、社会課題解消ビジネスは収益性が成り立ちづらい構図になる。

 これにより、黒字化や投資回収に至る前に資金が枯渇し、事業継続が困難になるケースが多い。

図表1 支払い意欲とコストのバランス
図表1 支払い意欲とコストのバランス

 では、関連するステークホルダーからのマネタイズは、どのように検討すべきだろうか。

 ここからは、課題の当事者の経済力が乏しく、直接的な課金が難しい場合を念頭に、マネタイズの方法を述べたい。

 社会課題が解消されると、そのメリットは課題の中心にいるステークホルダーだけでなく、それ以外のステークホルダーにも波及する。

 例えば「中小企業の低い労働生産性」は、関連するステークホルダーに様々な課題をもたらす。一方で、労働生産性が向上すれば、課題の中心にいる中小企業だけではなく、他のステークホルダーにもメリットが波及する。例えば、取引関係にある大手企業にとっては取引先の倒産リスクが減少し、中小企業に融資する金融機関にとっては貸し倒れリスクが減少する。自治体には税収増をもたらし、従業員の給与が上がって購買力が上がれば景気が良くなる。

 そのため、因果構造の模式図を利用して、まずは社会課題の解消のメリットがステークホルダーにどう波及するのかを可視化したい(図表2)。

図表2 中小企業の労働生産性向上の波及効果図
図表2 中小企業の労働生産性向上の波及効果図

 その上で、どのステークホルダーからどのようにマネタイズするのかを検討する。なお、その方法を検討する上での原則は、各ステークホルダーの目線でメリットを訴求することだ(図表3)。

図表3 ステークホルダーの目線から見たメリット
図表3 ステークホルダーの目線から見たメリット

 中小企業に関わる様々なステークホルダーの中で、資金の貸し手となる金融機関は欠かせない存在だ。中小企業の労働生産性向上は、中小企業にとっては「収益改善」というメリットがあるが、そのまま金融機関に伝えても全く響かない。彼らからすれば、労働生産性向上のための投資を、自分たちが肩代わりするような構図になってしまうためだ。そのため、金融機関の目線に立って「貸し倒れリスクの減少」と置き換えて訴求しなくてはいけない。

 では、マネタイズの方法にはどのようなものがあるのか。

 ここでは前述の通り、課題の当事者に経済力がないことを念頭に置いているので、解決策となるサービスを、できるだけ安価に、場合によっては無償で提供する場合のマネタイズ方法が必要となる。これには、「代行・成果コミットモデル」、「広告・販促モデル」、「データビジネスモデル」の3つのパターンがあると考えられる(図表4)。

図表4 マネタイズの3つのパターン
図表4 マネタイズの3つのパターン

 各パターンの具体的な内容や検討のポイントについて、具体例も交えながら解説していきたい。

ステークホルダーのメリットを創出する「代行・成果コミットモデル」

 まず、代行・成果コミットモデルは、ステークホルダーが社会課題の解消で得られるメリットの創出自体を代行する、ないしは成果にコミットする形でステークホルダーから委託費などをもらってマネタイズするものだ。

 例えば、金融機関に対し、「中小企業DXソリューションプラットフォーム」を「取引先企業の貸し倒れリスク低減サービス」として提供する。

 プラットフォームを利用する中小企業には、多様なDXソリューションを「無償」または「定額制で使い放題」などの形で提供する。

 一方、金融機関に対しては、プラットフォームを利用する中小企業のDXソリューションから取得できる様々な経営指標を提供する。または、経営指標から把握できる貸し倒れリスクを独自に算出してレポートを提供する。その対価として料金をもらう形でマネタイズするのだ。

 ポイントは、「提供サービスが確かに貸し倒れリスクの減少につながり、有効である」ことを、納得感ある形で提示する工夫が求められる。

 例えば、次の点をクリアにした訴求が必要だ。

  • 中小企業のどんな経営指標を取得し、提示できるのか。
  • 提示できる経営指標は貸し倒れリスクの判断上、どの程度有効か。
  • 独自レポートは、貸し倒れリスクを算定する上で有効なのか。

 また、現状かかっている費用の低減にコミットするような訴求方法も有効である。

  • 貸倒引当金を、現状から30%減らせる。
  • 貸し倒れリスクを算定するための人件費・外注費を20%削減できる。

 このケースで、貸倒引当金自体を減らすことをコミットする提案は難しい。また課題の当事者からステークホルダーが遠くなればなるほど、様々な不確定要素が入ってしまう。そのため、提供する解決策だけではステークホルダーが得たいメリットを創出することが難しくなる。

 一方で、貸し倒れリスクを算定するためのコスト(人件費や外注費)は、そのコストを20%削減した委託費でアウトソースするような形で、費用の削減自体により強くコミットするようなサービスも考えられる。

 ポイントは、実例・実績や定量的なメリットを提示することだ。金融機関は「中小企業の労働生産性が上がらない時のコストやデメリット」を現実味を持って認識でき、サービス購入の意思が高まる。

 一方、まだ顕在化していない社会課題の場合は、ステークホルダーに明確な費用が発生していないことも往々にしてあるだろう。ただ、課題に対して社内の業務やルールが未整備な場合でも、未整備であるからこそ外部に任せた方が効率的であるため、アウトソースしたいという動機もあるはずだ。

 図表5に、中小企業の例以外の同様のマネタイズ方法を紹介しているので参照していただきたい。

図表5 代行・成果コミットモデルの例
図表5 代行・成果コミットモデルの例

マッチングでマネタイズする「広告・販促モデル」

 広告・販促モデルは、社会課題解消ビジネスでも有効だ。これは、無償サービスで社会課題の当事者の顧客基盤をつくり、そこに広告を出稿することで企業の販促も支援するモデルとなる。

 例えば、「中小企業DXソリューションプラットフォーム」を利用する中小企業に対して、広告や販促を行い、マネタイズすることも考えられる。このモデルを実現するには先行投資が必要になるが、社会課題の大きさに鑑みると検討の余地は大きい。

 中小企業は労働生産性が改善されると、これまで手が回らなかった領域への投資余力を得られる。例えば、新たな機械設備の導入や店舗・工場などの拠点拡大、さらには海外市場進出など、事業拡大につながる多様なニーズが顕在化するはずだ。

 機械設備の新規導入を検討する中小企業には、設備メーカーや工業用ロボット提供企業を紹介できる。また、店舗や工場の拠点拡大を検討する企業には、不動産関連サービスの紹介が可能だろう。さらに、海外進出を目指す企業に対しては、貿易コンサルや現地販路開拓支援サービスの紹介が考えられる。

 この方法を有効にするカギは、社会課題の当事者の情報を的確かつ詳細に把握することだ。

 単に「多数の中小企業顧客を外部事業者に紹介する」だけでは、外部事業者にとって必ずしも魅力的な価値にはならない。外部事業者がほしいのは、特定の商品・サービスに明確なニーズを持つ、購買意欲や成長余力が高い「質の高い見込み顧客」だからである。したがって、顧客となる中小企業が抱える具体的な経営課題や投資検討領域をあらかじめ綿密に捉えることが求められる。

 図表6では、同様のマネタイズの方法を紹介している。

図表6 広告・販促モデルの例
図表6 広告・販促モデルの例

データで新たな事業を展開する「データビジネスモデル」

 最後に、社会課題の当事者のサービス利用を通じて蓄積されたデータを活用し、新たなサービスやビジネスを展開してマネタイズするデータビジネスモデルについて説明したい。

 具体例として、ケニアで展開されているモバイル送金サービス「M-PESA」を紹介する。

 M-PESAは、銀行口座を持たない人々へ携帯電話を通じた送金・決済手段を提供し、ケニア国内の社会課題であった「金融アクセスの不足」を大きく改善した。

 着目すべきは、蓄積された取引履歴データをユーザーの信用リスク評価に活用している点だ。

 同社はこの信用リスク評価をもとに、金融事業者との協業を通じ、マイクロファイナンスや保険など新たな金融サービスを展開することで、金融事業者からも収益を得ることに成功している。

 中小企業の労働生産性についても、同様のサービスは検討できるだろう。

 例えば、プラットフォームから取得した中小企業の企業情報や売上規模、従業員数などのデータだけでなく、企業間での取引状況、購買パターン、需給の変動などを活かし、次のような新サービスを他のステークホルダーに対して提供できる。

 企業リスク・ポテンシャル診断 取引データを活用し、中小企業の安定性や成長性を評価。中小企業へ融資を行う金融機関等に診断結果を提供しマネタイズする。

  • 中小企業M&A仲介 中小企業の業容を把握し、企業売却ニーズを掘り起こす。中小企業の買収を検討している事業者との仲介でマネタイズする。
  • 需要予測ソリューション サプライチェーンの上流から下流の取引データを活かし需要予測モデルを構築。メーカーの生産最適化や小売事業者の仕入れ最適化を支援しマネタイズする。

 このモデルでポイントとなるのは、「データそのものを売ろうとしないこと」だ。

 データはあくまでもサービスや事業展開に活用できる「素材」にすぎない。そのため、データ販売では、買い手が価値を十分に理解できず、ビジネスポテンシャルに対して低く見積もられる。

 したがって、原則としてデータを活かした新規事業の展開でマネタイズを図るべきだ。

内外のステークホルダーからのマネタイズでビジネスの成否が決まる

 ここまで、社会課題に関連したステークホルダーからのマネタイズ方法を説明した。続いてはステークホルダー以外からマネタイズする方法も参考までに説明したい。

 多くの企業は社会貢献活動に対して、恒常的に費用(CSR費用等)を投下するようになった。そこに着目し、企業が社会課題の解決に賛同し、協賛することで得られる社会貢献イメージや、企業のレピュテーション(評判)向上効果を訴求するというのがこの方法だ。

 好例としては、米国のTerraCycleが展開する「Loop」が挙げられるだろう。

 Loopは、リユース可能な容器を活用した循環型ショッピングプラットフォームである。消費者はリユース容器に入った食品や日用品などの商品を購入する。その食品や日用品を使用後、店舗に設置された専用返却ボックスに容器を戻すと、容器代として支払ったデポジットが返金される。返却された容器はLoopが回収し、洗浄や再充填を経て、再び商品として供給される、というものだ。

 このプラットフォームで、メーカーはLoopに費用を支払い、商品を出品しているが、その目的は単なる売上拡大ではない。環境保全への貢献を通じたブランド強化やレピュテーション向上の効果である。

 つまり、リユース容器を活用した商品提供を通じてエシカル消費を促進し、その成果を企業ブランド向上のために活用しているのである。

 関連するステークホルダー以外からのマネタイズのカギは、参加ハードルを可能な限り下げることである。複雑な手続きや審査を極力排除し、参加しやすい仕組みを整えることで、多くの企業を呼び込む。そうすることで、「参加企業の増加↓『参加企業数の多さ』による認知や影響力の向上↓『社会貢献によるブランド強化』を求める企業増加」という好循環が実現し、持続的なマネタイズが可能となる。

 以上を踏まえると、ビジネスモデル検討のポイントは次のように言える。

 社会課題解消ビジネスでは、複数のステークホルダーが関わる広範な課題を解消する必要があり、誰からマネタイズするかが見えにくい。さらに、社会課題の当事者に経済力がない場合は、「誰からマネタイズするか」が重要となる。

 この場合、他のステークホルダーからマネタイズする方法として、「代行・成果コミットモデル」、「広告・販促モデル」、「データビジネスモデル」の3つのパターンがある。いずれもステークホルダーの目線に立って訴求していくことが重要だ。

3つのステップで成功!社会課題で新規事業をつくる 「ソーシャル×テクノロジー」で生まれるビッグチャンス

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3つのステップで成功!社会課題で新規事業をつくる
「ソーシャル×テクノロジー」で生まれるビッグチャンス

著者:EYストラテジー・アンド・コンサルティング
発売日:2025年4月21日(月)
定価:2,420円(本体2,200円+税10%)

本書について

本書では、通信業界・製造業・金融機関・IT業界等の一部上場企業を中心に支援実績の豊富な著者が、テーマ選定からマネタイズの方法まで具体的な思考法を徹底解説!

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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