実践者が語る、SaaSビジネスがマーケットに受け入れられるまで
講演タイトル:スタートアップの価値を高める 起業家は事業家になれるか
登壇者
- 株式会社カオナビ 代表取締役社長CEO 柳橋仁機氏
- 株式会社フィードフォース 代表取締役社長 塚田耕司氏
- 株式会社PR TIMES 代表取締役 山口拓己氏
モデレーター:スパイラル・イノベーション・パートナーズ 代表パートナー 岡洋氏
岡洋氏(以下敬称略):SaaSビジネスにおいて、「プロダクトがマーケットに受け入れられる前」と「マーケットに受け入れられてグロースしていくタイミング」が重要です。まずは前者について、何を大事にしていたのか、何を軸にアクションを起こしてきたのかをお聞かせください。
柳橋仁機氏(以下敬称略):私が創業した2012年には「プロダクトマーケットフィット(PMF)」という言葉はほとんど知られていませんでした。今ほど資金調達の環境も整っておらず、やっと調達できた資金で会社を軌道に乗せることに心血を注いでいました。
その頃を振り返って思うのが、SaaSビジネスは“雪だるま”だということです。雪だるまは最初に作ったが丸が綺麗だと大きくなるし、いびつだといくら転がしても大きくならないですよね。それと同様に、SaaSも最初に綺麗な丸を作れば、あとはひたすら拡大させるだけになります。SaaSにおける綺麗な丸とは、「プロダクト収益だけで黒字になった」状態です。カオナビもそこまでは4人で引っ張り、そこからは人数を増やして拡大させました。
塚田耕司氏(以下敬称略):私たちは元々デジタルマーケティングを支援するサービスを提供していましたが、PMFの方法論も確立されておらず、基本的にはプロダクトアウトでした。私たちが強みにしている基礎技術をどういう業界に使ってもらえるか試行錯誤しながら成長させていきました。
山口拓己氏(以下敬称略):2007年創業の私たちも、最初はリーンスタートアップとは真逆の方法で進めてしまっていました。ローンチ日が近づくと不安を抱くようになり、その不安を解消するために機能を追加するというサイクルです。その結果、ローンチ時に機能が多すぎてしまい、その後1年半かけて削っていきました。
岡:いびつな雪だるまでスタートしてしまったということですね。機能を削ぎ落とすにあたって、最小単位のキーとなるプロダクトはどうやって決めたのでしょうか。
山口:市場、ユーザーに聞くことの繰り返しですね。使ってもらえない機能は削り、使ってもらえるものにリソースを投入して磨きこむことを繰り返しました。
岡:塚田さんはいかがでしょうか。得意な技術があると、盛り込みたくなると思うのですが。
塚田:クライアントが求めるものに応じて機能を高めていった結果、受託生産に近いものになり、その企業でしか使われないものになってしまうことが何度もありました。身近なクライアントのニーズに応えすぎず、“最大公約数”は何かを考えながらだんだん進化していきました。
岡:柳橋さんは、プロダクトの綺麗な丸を作るためにどのようなことを心がけていたのでしょうか。
柳橋:先ほどご紹介した綺麗な丸は、あくまでもキャッシュフロー上の判断で、プロダクトとしての正解はないと思います。ただ、マーケットインとプロダクトアウトはタイヤの両輪であり、どちらも極めないといけません。私たちの場合、プロダクトアウトを担う私と、マーケットインを担う佐藤(取締役副社長 COO 佐藤寛之氏)で毎日議論していました。