イノベーションを生み出す「小さなリーダーシップ」

第2回

 前回は、会社が世界を変えるために重要な役割を担い、その会社を変える責任は僕たちにあり、かつ変えることができるということを確認した。少し気後れしてしまった読者も多いのではないだろか。今回はそんな諸君に、何からはじめていくのか、それは「天性のリーダー」でなければできないことなのか。また、企業の中から世界を変えていった、30代半ばまで「うだつの上がらないサラリーマン」だった人の話をしよう。

[公開日]

[著] 山口 周

[タグ] タレントマネジメント リーダーシップ 企業内イノベーター

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まずは「小さなリーダーシップ」でいい

 前回は、会社が変われば世界が変わるということ、そして会社を変える責任は僕たち自身にあるということを確認した。しかし、諸君のなかには、自分が世界の変革に影響を与えられるとはとてもじゃないけど思えない、というヒトもいるかも知れない。世界を変えるなんていうことが出来るのは、才能やカリスマ性にあふれた「天性のリーダー」であって、毎日会社勤めしながら世知辛い悩みに身をやつしている自分に、そんなことできるわけがないよ、と。これはつまり、世界を変えるのは「大きなリーダーシップだ」という捉えかただね。これはこれでとても共感できるのだけれども、実は世界という船が大きく舵を切るきっかけになるのは、意外や「小さなリーダーシップ」だったりすることが多い、ということを知っておいて欲しい。

ローザ・パークス ローザ・パークス 例えば米国における黒人差別是正の大きな契機となった公民権運動のきっかけになったのは、たった一人の黒人女性=ローザ・パークスが、バスの白人優先席を空ける様に命じられた際、これを断って投獄されたという、本当に小さな事件がきっかけになっている。いわゆるバス・ボイコットだ。ローザは当時工場に勤めるごく普通の女工さんで特に運動家だったというわけではない。この事件も、別に革命を起こそうとか公民権運動を主導しようといった意図があって起こしたわけではなく、ただ単に「疲れていたから立ちたくなかっただけ」と彼女は述懐している。ただし、席を立て、と言われた時に、自分の中の価値観やルールに照らして理不尽だと感じた彼女は、それに従わなかった、ということだ。ここで発揮されているのはごくごく小さなリーダーシップでしかないけれども、その小さなリーダーシップがやがてアメリカの歴史そのものを変えていく様な大きなうねりになって全米の運動につながっていくことになったんだね。

『歴史は「べき乗則」で動く』 歴史は「べき乗則」で動く サイエンスライターのマーク・ブキャナンは、その著書『歴史は「べき乗則」で動く』の中で第一次世界大戦勃発の原因となったオーストリア皇太子の暗殺が、皇太子を乗せた自動車の運転手の道間違いによって発生している事例を取りあげて、歴史というのは大きな意思決定よりも、どこかで毎日行われているようなちょっとした行為や発言がきっかけになって大きく流れを変えるという、カオス理論で言及されるところのバタフライ効果について論じている。バス・ボイコット事件もバタフライ効果の発露と言えるかも知れない。

 過去の歴史を見ると、大きな変化が「大きな変化を起こそう」という意図のもとに成し遂げられたことは実はそれほど多くないんだね。どちらかといえば、ごくごく小さなきっかけが、後から振り返ってみると大きな歴史的変化の契機になっていることが多い。そして、その小さなきっかけというのは、多くの場合「自分の可能性にまだ気づいていない、ごく普通の人」によってなされていることが多いんだ。

 世界を変える?そんなのは政治家や大企業経営者の考えることで、僕にそんなこと出来るわけじゃない、と思う人が多いかも知れない。でもね、このローザ・パークスの話は、もしかしたら、君のオリジナルな価値観に基づく行動や発言が、百年後の世界のあり様を「それがなかった時」とは大きく変えることになるかも知れないということを示唆している。

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