調査の結果、デジタルエンジニアを率いてDXを推進する「デジタルリーダー」は、デジタルエンジニア以上にマーケットにおいて少数、かつ、転職志向が強く、企業が必要な人材を確保することが難しいことが明らかになった。また、デジタルリーダーの志向性として、デジタルエンジニアと同様にスキルアップを重視するという傾向がみられた一方で、異なる点も明らかになった。デジタルリーダーは、自身の専門領域に関わらず、さまざまな分野での経験を求めており、かつ、周囲と協調しながら自分を高めていきたい、という考えを持っている。この志向性を踏まえると、企業がデジタルリーダーを確保するためには、優秀な人材が集まったチームやプロジェクトへの配属に加え、チャレンジングなミッションを与え、デジタルリーダーの知的好奇心を刺激し続けることが重要だという。
1.デジタルリーダーのボリュームと属性的な特徴
今回、20代~40代の有職者を対象に調査を行ったところ、デジタルリーダーは全体の約2%しか存在しないことが分かった。
デジタルリーダーの年代構成を見ると、デジタルエンジニアと比較し、年代が上がるほどボリュームが大きくなることが確認された。これは、DXを推進するには、牽引する力やビジネスの知見も必要とされることから、ある程度の社会経験が必要ということを示している。その他にも、デジタルリーダーは、男性の割合が大きく、既婚率はやや高いこと、また、地方に少なく首都圏に多いことがわかった。以上のことから、デジタルリーダーの典型的な属性を、「首都圏に住む30代後半の既婚男性」としている。
2.デジタルリーダーの転職流動性
次に、デジタルリーダーの転職流動性について確認した。デジタルリーダーは約85%が転職を経験しており、この転職経験者数はデジタルエンジニアの約1.4倍(一般層の約1.6倍)であった。また、デジタルリーダーの約83%は現在も転職の意向があり、約46%は1年以内の転職を考えている。1年以内の転職意向もデジタルエンジニアの約2倍(一般層の約7倍)であった。
これらを踏まえると、デジタルリーダーは、属性は特徴的でないが、存在は希少であり、転職流動性が極めて高い。適切な人材を確保しDXを推進するためにも、デジタルリーダーのキャリアや働き方に対する志向性を理解した上での人材確保が重要となることがわかる。
3.デジタルリーダーの仕事に対する志向性
この調査では、デジタルリーダーの志向性をより詳細に確認するために、デジタルリーダーに対して転職理由や働く上で重視する点について調査を行った。
転職理由については、デジタル人材に共通して「より高い報酬を得る」「スキルアップの学びができる環境で働く」ことが挙がった。デジタルリーダーは、上記2項目と並んで「能力が高く刺激しあえる人材と働く」ことを挙げており、社員同士でお互いの強みを高め合い、相乗的に成長する働き方を望む志向が確認された。一方、デジタルエンジニアは、上記2項目に次いで「より興味のある分野への挑戦」を挙げており、自身のスキルやテーマを深めるようなキャリア志向であることがわかった。これらの結果から、デジタルリーダーは「人」を重視しチームや組織とともに成長するチームワーク型の働き方、デジタルエンジニアは「仕事」を軸に自分のスキルや領域を深める専門化型のキャリア志向と、それぞれ異なる志向性が確認された。
また、働く上で重視する点について、いくつかのテーマに分けて聴取した。そのうち「人材」「組織」「評価・キャリア開発」「仕事内容」「職場環境の5つについて、デジタルリーダーの特徴が確認された。
デジタルリーダーは、「人材」の観点において「能力が高く刺激し合える同僚」を重視する。転職理由にも挙がった「能力が高い人材と高め合う」働き方は、同僚に主眼を置いていることが明らかになった。また、「組織」については「互いに協力的で尊重し合える社風」を重視し、チームワークを重んじる傾向が読み取れた。「職場環境」「仕事内容」に対しては、「興味のあるナレッジへのアクセシビリティ」や「知的好奇心が満たされる仕事」を重視しており、自分の専門性を高める方向に限らず、関心のある領域に知識・スキルを広げていくキャリアを志向することが分かった。「評価・キャリア開発」の観点では「会社からスキル形成の機会が提供されること」を重視し、デジタルリーダーが新たな領域に挑戦する上で、企業や組織に対してスキルアップの支援を期待することがうかがえる。
これらを踏まえ、デジタルリーダーは仕事や転職を通じたスキルや領域の拡大を実現することに主眼を置き、それに必要な要素として「スキル形成の機会」「優秀な同僚」「チームワーク」などを求めることが分かった。
デジタルエンジニアは、「人材」「組織」の観点として「自分と価値観の合う社員が多い」「風通しが良い」ことを挙げている。「職場環境」については「リモートワーク」「自分専用の席」など一人一人にあった環境の整備を重視する。デジタルリーダーがチームワークや同僚との高め合いを重んじる一方で、デジタルエンジニアは《個の働き方》を望み、コミュニケーションにおいて“摩擦”がない状態を好む。「評価・キャリア開発」の観点では、「評価基準やプロセスが明確」であることを重視し、社内の制度や基準等においても見通しが良い状態を求める傾向が分かった。また、「仕事内容」については「自分のスキルを生かせる」ことを重視し、彼らの専門性を追求する志向がより明確に表れた。
これらを踏まえ、デジタルエンジニアは個々に合った働き方ができる環境に身を置きながら、自分のスキルや領域を深化させるようなキャリア志向であることが読み取れた。