勝てる新規事業はマーケットインを徹底的に突き詰めている
新規事業や新商品を開発する際には、消費者ニーズを起点に商品を企画・開発する「マーケットイン」という考え方が用いられますが、私たちは、このマーケットインを“徹底的に突き詰める”ことによって、ヒットブランドへの成長確率を引き上げています。
「マーケットインを突き詰める」というのは、市場調査や消費者ニーズの把握で終わるわけではありません。顧客の現在の潜在的な期待やニーズを踏まえることはもちろんのこと、将来的に顧客が求める価値や体験を事前に予測し、先取りして提供すること。すなわち「顧客に“未来”を提供できているか」ということです。
また、その求める価値や体験を商品企画・開発に反映していき、商品企画・開発の先の、消費者がその商品を手に取るまでの思考プロセス、手に取る瞬間、そして実際に体験し、リピートするという購買行動の一連を踏まえた上で、商品企画・開発や販促戦略に落とし込む(販売戦略を見据えた上での商品企画・開発)。それらをもとに、事業計画の段階で新規顧客の獲得からLTV(顧客生涯価値)の最大化、ブランド認知の向上までの成長戦略を具体的に設計することも“突き詰める”にあたります。
私たちが食品・ビューティー・ヘアケアなど、特定のジャンルに特化せずブランドを立ち上げ、ヒットブランドへと成長させ続けられているのは、マーケットインを突き詰めているからこそだと考えています。
「経済動向」×「消費者インサイト」をリアルに描けるかが選ばれるカギ
現在、国内EC市場における商品群は3億個とも言われています。ヒット商品を作るということは、3億個の商品から売れる1つの商品を見つけ出すということとほぼ同義です。ここでマーケットインの突き詰め方が甘いと、商品としていくら魅力的でも有象無象の商品の中に埋もれてしまいます。そこからさらに踏み込むことで、自ずと描くべき商品像が見えてくるのです。
シャンプーの例で詳しくご説明します。
現在のヘアケア市場では、年齢や性別、家族構成、髪質などの悩みなど、ターゲットも細かく分解されており、ドラッグストアで低価格で購入できるものや、美容室専売品などの高価格帯商品の増加など、新たに参入をしてヒットさせるには市場規模のパイがあまり大きいとは言えません。しかし、近年経済動向から分析すると、高価格帯シャンプーの購入者増加の裏に美容室に行く頻度が減っているという消費者の傾向が見えてきます。そこには物価高や給与水準の課題、タイムパフォーマンス重視など様々なインサイトがあり、頻繁にサロンに行くよりも、少し良いシャンプーを買って日々のケアの質を高めることの方が、トータルの時間やコストとしてはお得と考える人が多いということがわかります。つまり「シャンプー」といっても、その裏に隠れているユーザーの課題は「物価高」や「タイパ重視」というように、シャンプーそのものと直接関係ないのです。
その上で、シャンプーに求めるものとは何かに立ち返りましょう。髪や頭皮に対してどのような悩みを抱えているのでしょうか? それらの悩みが改善されたとき、どのような生活が待っているのでしょうか。このBefore/Afterを明確に描けるようなブランド・商品の世界観を作ります。このとき、競合他社の製品についても分析を忘れてはなりません。競合に勝てる特異性と成長曲線を具体的に算出し、勝ち筋が見えるかどうかシミュレーションします。こうすることで、ようやく多くのユーザーの共感を生む商品コンセプトが完成するのです。

もう一例として、私たちが手掛けた初の食品事業、冷凍おかず定期便サービスの「三ツ星ファーム」を例に新規事業を立ち上げるにあたっての思考プロセスをお伝えします。
まず、企画がスタートした2020年当初、統計データや消費者の調査から食事にまつわる顕在ニーズとしては「共働きだと忙しい中で食事の準備をするのは大変」「外食ばかりでは栄養バランスを考慮した食事は難しい」「コロナ禍で中食へのハードルが下がった」などが見えていました。
その中で私たちが注目したのは「冷凍食品はおいしくない」「おいしさを感じられないと食事が苦痛に感じる」という食事に関するそもそもの課題です。それらをもとに、競合の流通量や現在の市場規模と成長見込みとを重ね合わせ、「手軽さ」「健康」「おいしさ」をすべてかけ合わせるブランドコンセプトが決定。
シェフ監修メニューに、栄養士監修による独自の三ツ星基準を採用することで、「手軽さ」「健康」「おいしさ」の三拍子を実現させました。その結果、ローンチから約3年半で累計販売食数は2,000万食を突破し、広く愛されるブランドへと成長しています。
マーケットインを突き詰める中で「売れる商品を作らないと」と焦る必要はありません。まずは消費者がどのような思考を経て行動に移しているのか、その裏にある経済動向は何かを突き詰め、「どのような商品なら消費者に喜んでもらえるのか」を徹底的に考えればいいのです。