連載・コラム ビジネスアジリティとデザイン

DXに不可欠な「ビジネスアジリティ」とは何か──経営戦略論と組織論とアジャイル開発が融合する時代へ

第1回

 本連載では、「使いたい!」をデジタルプロダクトで実現し続けるための具体的方法である「体験デザイン×リーン×アジャイル」を中心テーマとして、論を進めます。この中心テーマを語る前提として、組織の制度と風土が伴わなければ、それらの方法論も絵に描いた餅となってしまいます。そこで今回と次回は「使いたい!」を実現するために必要な「制度・組織・人」について、最近注目されている「ビジネスアジリティ」の観点から考察していきます。

[公開日]

[著] 根岸 慶

[タグ] 事業開発 企業戦略 アジャイル開発 DX ビジネスアジリティ SAFe

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「デザイン思考×カルチャー変革」だけでは足りない、DX実現のもう1つの柱とは

 筆者は2019年にBiz/Zineの連載にて、DXを実現するためには「デザイン思考」を組織全体で導入すること、そして忖度なく意見を出し合えるカルチャーを作り上げることが重要であることをお伝えしました。この内容については、まだまだ日本企業での導入は道半ばで、今でも有効な考え方であると思っています。ただ、この2つを実現してもまだDX実現には足りないことを、改めて認識し、今に至っています。

 では、その足りない要素は何か。それは、「ビジネスアジリティ」です。「アジリティ」とは、機敏性や俊敏性を表します。VUCAと呼ばれる不確実で予想困難な時代においては、「計画遂行能力」と同じかそれ以上に「環境適応能力」の重要性が増していきます。企業において、ビジネスの環境変化に機敏に対応する能力、それがすなわち、「ビジネスアジリティ」です。

 ビジネスアジリティを推進する中心組織のひとつであるBusiness Agility Instituteではこう説明しています。

「組織のアジリティは、最もアジリティの低い部門のアジリティレベルに依存する」
(出典:Business Agility Institute「Domains of Business Agility」筆者訳)

 たとえばIT部門が積極的にアジャイル開発を取り入れたとしても、それでビジネスアジリティが高まるわけではない、むしろアジリティの濃淡による部門間対立が生まれてしまうことになります。このように、ビジネスアジリティは、アジャイル開発だけでは解決できない組織としての環境適応能力の向上を促します。そのことはアジャイル開発すらもまだ導入できていない組織が、“周回遅れ”に突入することを意味します。

ビジネスアジリティとは何か

 あらためて「ビジネスアジリティ」とは何か、その具体的なイメージを持つところから話をスタートしたいと思います。さきほどは「企業がビジネスの環境変化に機敏に対応する能力」と述べましたが、Business Agility Instituteではもう少し詳しい定義をしています。

「ビジネスアジリティとは、顧客の利益のために変化に適応し、変化を創造し、変化を活用する組織の能力と意志のことである」
(出典:Business Agility Institute「Domains of Business Agility」筆者訳)

 もう少し具体的に表現すると、以下のようなものが含まれます。

  • 市場のニーズをいち早く掴む能力と意志
  • 迅速に意思決定する能力と意志
  • 外部環境の変化に合わせて計画を素早く修正する能力と意志
  • サービス、プロダクト、プロセスを能動的に見直し、更新できる能力と意志

 また、アジリティとスピードは異なります。スピードは単純に「速さ」ですが、アジリティは「俊敏」「機敏」です。たとえばトップダウンにすればするほど、経営全体としての「スピード」は増加しますが、社員の判断能力は育たず、環境変化への適応は難しくなる、すなわち、アジリティは増加しない、もしくは減少します。

 次項ではビジネスアジリティの学問的、歴史的背景を見ていきます。

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