企業の発展段階で異なる「ガバナンスの力点」と「厳選投資家の思考」
中神 康議氏(みさき投資株式会社代表取締役社長、以下敬称略):前編では、障壁を築くことに成功した企業がかかりやすい“勝者の呪い”のひとつとして「複利が一般企業並みに低下すること」を挙げさせてもらいました。そして、“勝者の呪い”のもうひとつは「集団意思決定」だということを予告しました。
僕は「ガバナンス」という言葉があまり好きではなかったのですが、ガバナンスを日本語に置き換えると「意思決定を集団でどうやるか」ということだと思います。ポイントは、会社の発展段階、すなわち「所有と経営の分離度合い」によって、ガバナンスの力点は大きく変容していくということです。
オーナー経営者がいるときのガバナンスと、大株主は存在するけれど経営は別になっている会社のガバナンス、株も分散して「サラリーマン共和制」になっているときのガバナンスは、重心が全然違う。その点を踏まえて議論することが必要だと思います。
特にリスクテイクが難しくなるのが、第三段階の「サラリーマン共和制」の状態です。本にも書きましたが、横軸に設立からの年数、縦軸にROAを取ってグラフにしてみると、日本の会社は創業して20年くらいまではものすごくROAが上がっています。ROAはリスクを取ることでしか生まれないので、それだけリスクを取っているということですよね。創業者の時代は実はアメリカの会社と比べてもROAが高いのですが、二代目、三代目になると大きく低下していく、つまりはリスクを取らなくなっているのです。これが日本の大企業の多くが陥っている状態です。
一方でアメリカの会社はしぶとくて、ずっとリターンを上げています。裏で一生懸命リスクを取っていたということでしょう。どうしたらこういう風にできるのかというと、ガバナンスの問題だと考えられます。前編でお話したとおり、リスクを取れるCEOに権限を集中させ、執行がそれを支える体制をつくるべきだと思います。
日置 圭介氏(ボストン コンサルティング グループ パートナー&アソシエイト・ディレクター、以下敬称略):良い経営と良い企業、良い投資家がいると産業が強くなると思っているので、今後の日本のためにも中神さんのような「厳選投資家」が増えると、とても良いと思います。厳選投資家になるには、必要な資質というものがありますか。
中神:世の中にはいろいろな投資家がいて、多様だからこそマーケットで売り買いが成立しているわけです。その中でも厳選投資家というのは、4,000社もある上場会社の中から10社だけ選びます、というくらい投資先を厳選します。そうすれば、本当に複利が効いて長期で報われるからです。
それには、「この会社は複利が効くような経営なのか」ということを見極める必要があります。そのためには「良い経営とはなんぞや」ということを考えるのが三度の飯より好きじゃないとダメで、逆にそういう人であれば厳選投資家になれるでしょう。
経営コンサルタントはだいたいこれに当てはまるので、そこに人材プールはあるでしょう。もしかしたら、税理士さんとか会計士さん、インベストメントバンカーもそうかもしれないですし、投資業をやっている商社さんにもいるかもしれません。いずれにしても、本当に経営が好きで、かつちょっと抽象化して距離をおいたところから見るということが好きな人であれば、十分に成り立つと思います。
日置:コンサルタントの中にも、長期的なリレーションからのビジネスを好む人とイベントドリブンの即物的な人とがいます。あまり即物的すぎると良くないですかね。
中神:そうですね。経営より執行が好きという人もいます。この表で左側の世界だけが好きだということだと、投資家には向かないです。少し引いて、どちらの見方もできる人じゃないと難しいですね。