グロース・キャピタルは、抗体創薬のバイオベンチャーであるカイオム・バイオサイエンスと共同で、「バイオベンチャーへの投資意識調査」を個人投資家15,020名を対象に実施した。
岸田政権による「骨太の方針2022」で、バイオ、量子、AI、センサー、IoTなどのディープテックは、国益に直結する科学技術・イノベーション分野として重点投資分野に指定されている。今回の調査ではディープテックのうち、新たな薬や医療技術を開発するバイオベンチャーの投資に焦点を当てたという。
なお、日本国内で上場するバイオベンチャーは、機関投資家が投資を行うケースが少なく、個人投資家が中心となってバイオベンチャーを支える構図となっていることから、個人投資家を対象に調査を実施したとしている。
調査の概要
- 調査名:「バイオベンチャーへの投資意識調査」
- 期間:2022年8月29日~9月2日
- 方法:インターネットリサーチ
対象および調査項目
【調査1】個人投資家15,020人/バイオベンチャー投資経験者2,809人
- バイオベンチャーへの投資経験
- バイオベンチャーへの投資前の情報収集
- バイオベンチャーへの投資理由
- バイオベンチャー投資家の分類
- バイオファンの行動パターン
- バイオファンの投資理由
- 調査対象の年齢層
【調査2】バイオベンチャーに投資していない個人投資家214人
- バイオベンチャーに投資しない理由
バイオベンチャーへの投資経験
バイオベンチャー複数社に投資経験がある(積極投資層)は投資家全体の約6%であった。
- 設問:バイオベンチャーへの株式投資の状況として、あなたに最も近いものを教えてください
- 結果:全体の18.7%の投資家がバイオベンチャーに投資経験があると回答
内訳は以下のとおり。
- 複数社に投資経験のある「積極投資層」 6.3%:「現在バイオベンチャー1社に投資している(過去にはほかの会社にも投資している)(2.6%)」「現在バイオベンチャー複数社に投資している(3.7%)」を総計したもの
- 1社のみ投資経験がある「たまたま投資層」12.4%:「過去にバイオベンチャーに投資したことはある(今はしていない)(8.7%)」「現在バイオベンチャー1社に投資している(過去も含めて投資先は1社だけ)(3.7%)」を総計したもの
コメント:「バイオベンチャーは将来の成長を期待される分野ではありますが、その研究開発投資を支えるバイオベンチャー領域への投資経験者は、複数社に投資経験のある「積極投資層」で約6%、過去1社でも投資したことがある「たまたま投資層」は約12%で、合計でも2割弱に留まりました」
バイオベンチャーへの投資前の情報収集
技術や対象疾患を調べ、理解した上で投資する層が約6割であった。
- 設問:バイオベンチャーに投資する際の状況として、あなたの状況に最も近いものを教えてください
- 結果:「理解して投資」を行う層56.5%、フィーリング投資層34.3%、テクニカル投資層9.2%
内訳は以下のとおり。
- 「理解して投資」を行う層56.5%:「技術や対象疾患などをしっかり調べ、しっかり理解した上で投資する(19.3%)」「技術や対象疾患などをある程度は調べ、ある程度理解した上で投資する(37.2%)」を総計したもの
- フィーリング投資層34.3%:「技術や対象疾患などをある程度は調べ、正直あまり理解できないものの、良さそうと思い投資する(24.6%)」「技術や対象疾患などはあまり調べず、印象や直感で投資する(9.7%)」を総計したもの
- テクニカル投資層9.2%:「チャートやボラティリティなど、テクニカルで投資する(事業内容はあまり気にしない)(9.2%)」
コメント:「バイオベンチャーの投資経験者は、半数以上が技術や対象疾患について「理解」しようとする姿勢を持っていることがわかります」
バイオベンチャーへの投資理由
TOP3は「将来大きく成長しそう」「テクノロジーの競合優位性」「社会にとって有益」となった。
- 設問:バイオベンチャーに投資した際の投資理由として、あなたに当てはまるものをすべて教えてください
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結果:
○ 将来大きく成長しそうだから 70.3%
○ テクノロジーに競合優位性がある 30.8%
○ 社会にとって有益だから 23.2%
○ 対象としている疾患・病気に関心がある 18.5%、他
コメント:「未だ治療法が確立していない疾患に挑むバイオベンチャーには、世界に変化をもたらすテクノロジーの優位性や社会への貢献を期待する投資家層が一定数いることが分かりました」
バイオベンチャー投資家の分類
調査対象の個人投資家(15,020人)のうち、バイオベンチャー投資経験者(2,809人)に対して、調査「投資状況(複数社/1社のみ)」「投資時の調べ方・理解状況(調べ理解/調べず理解せず)」の回答結果から4パターンの分類を行ったという。結果は以下のとおり。
- バイオファン(積極投資×理解して投資):20.7%(投資家全体の3.9%)
- 勉強家(たまたま投資×理解して投資):35.8%(投資家全体の6.7%)
- ギャンブラー(積極投資×分からず投資):13.2%(投資家全体の2.5%)
- トライアル(たまたま投資×分からず投資):30.3%(投資家全体の5.7%)
結果、「バイオファン」はバイオベンチャー投資家の約20%を占め、投資家全体の約4%にのぼった。
コメント:「岸田政権が重要投資分野に掲げるバイオ・創薬領域ですが、技術や対象疾患を理解した上で積極的に投資する層は投資家全体の約4%に留まり、今後バイオファンの増加がバイオベンチャーの資金調達環境の改善に向けたキーになると推察されます」
バイオファンの行動パターン
バイオファンは、他分類の投資家に比べ情報収集への意欲が高いことが分かったという。
- 設問:あなたが株式投資で特定の会社に興味を持った場合、普段行う情報収集の方法(その企業を知るために確認する情報)をすべて教えてください
-
結果:
○ 公式サイトのIR情報 66.8%(全体平均 +14.9ポイント)
○ 公式サイトのIRニュース 53.7%(全体平均 +15.3ポイント)
○ 公式サイトのIR以外の情報 48.2%(全体平均 +12.9ポイント)
○ 公式サイトのIR以外のニュース 38.6%(全体平均 +12.3ポイント)
○ 有価証券報告書 35.8%(全体平均 +11.9ポイント)
○ 決算短信 38.0%(全体平均 +8.9ポイント)
○ 決算説明会資料 34.4%(全体平均 +13.0ポイント)
○ 決算説明会動画 23.4%(全体平均 +12.4ポイント)
○ 中期経営計画 32.5%(全体平均 +14.0ポイント)
コメント:「バイオファンは他の分類より積極的に情報収集を行っており、バイオファン獲得に向けて、バイオベンチャーは積極的な情報発信が肝要であることが確認できました」
バイオファンの投資理由
バイオファンは投資理由において、「テクノロジーの競合優位性」「社会にとって有益」「対象としている疾患・病気に関心がある」などで、全体平均に比べて10ポイント以上高いことが分かったという。
- 設問:バイオベンチャーに投資した際の投資の理由として、あなたに当てはまるものをすべて教えてください
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結果:
○ テクノロジーに競合優位性があるから 45.3%(全体平均 +14.5ポイント)
○ 社会にとって有益だから 34.6%(全体平均 +11.4ポイント)
○ 対象としている疾患・病気に関心があるから 28.7%(全体平均 +10.2ポイント)
コメント:「バイオファンがバイオベンチャーに投資する理由として、他の分類に比べて『社会にとっての有益性』『対象疾患・病気の治療法への期待』が強い傾向にあることが分かりました」
調査対象の年齢層
25~34歳で、特にバイオファンの割合が高かったという。
- 設問:属性別調査対象の年齢
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結果:5歳刻みの年齢別分類において
○ 25歳~29歳におけるバイオファン 28.4%(バイオファン平均 +7.7ポイント)
○ 30歳~34歳におけるバイオファン 33.8%(バイオファン平均 +13.1ポイント)
コメント:「バイオベンチャー投資家のうち、25歳から34歳の若い世代では、他世代に比べてバイオファンが比較的多く、バイオベンチャーのIRにおいては若い世代への発信も重要であることがわかります」
バイオベンチャーに投資しない理由
「事業や株価のボラティリティ」と「事業理解の難しさ」が2大要因となった。
- 設問:バイオベンチャーに投資しない理由として、あなたに当てはまるものをすべて教えてください
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結果:
事業や株価のボラティリティの高さ
○ 創薬が成功するかどうかの当たり外れが大きいから(ギャンブル要素が強いから) 43.9%
○ 株価の変動が大きいから 21.0%
○ 株価の暴落が怖いから 20.1%
事業理解の難易度の高さ
○ 有望かどうか判断できない/理解できないから 45.3%
○ 知識がない/よくわからないから 25.2%
コメント:「投資家は、大きく2点(①事業や株価のボラティリティの高さ、すなわち創薬の進捗が事業や株価に与える影響が非常に大きいこと、②事業理解の難易度の高さ、すなわち技術評価や企業価値評価が難しいこと)がボトルネックとなり、バイオベンチャーに投資を行っていないことが分かりました。この2点へのアプローチがバイオベンチャー投資家を増やすためのキーになると考えられます」