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GAFAMが「冬の時代に突入した」と言われるのはなぜか? コロナブーメラン効果と新たな将来性を解説

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 2022年から2023年にかけて、テック業界でリストラの嵐が吹き荒れています。いわゆるGAFAMでも同様の大規模なリストラが行われ、「冬の時代」が来たと噂されることも。ですが、それは本当に正しいのでしょうか。例えば、GAFAMをはじめとするテック企業はメタバース、Web3、モビリティ、AIなど、今後巨大な市場となりそうなテクノロジー領域に参入してもいます。そこで今回は、立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)の教授である田中道昭氏の著書『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』(翔泳社)から、GAFAMがコロナブーメラン効果でどのような影響を受けたのか、そして各社がどんな次の一手を打とうとしているのかを解説します。

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 本記事は『GAFAM+テスラ 帝国の存亡 ビッグ・テック企業の未来はどうなるのか?』の「はじめに」と「第1章 GAFAMを襲うコロナブーメラン効果」から抜粋したものです。表記は書籍内容に準じています。

はじめに

 毎年米ラスベガスで開かれるCESには、世界中のテクノロジー企業や自動車メーカー、家電メーカーなどから出品された数多くの製品が並びます。世界のテクノロジー産業をウォッチするのにも最適で、2023年1月に、3年ぶりに現地まで足を運んでみました。

 このCESの前から、実はちょっと不穏なニュースが流れていたのです。前年から今年にかけて、テック業界ではリストラの嵐が吹き荒れています。アメリカのテック業界だけで、10万人を超えるリストラがあり、それもグーグルやアマゾン、メタ(旧フェイスブック)といったいわゆるGAFAMでさえ大規模なリストラをしているというのです。そのため、GAFAMが「冬の時代」に突入しているとまでささやかれるようになっていました。

 いうまでもなく、GAFAMとはビッグ・テックと呼ばれる米国情報産業の中で最も規模が大きく有名な5社です。グーグル、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフトの5社ですが、その社名を知らない人のほうが少ないのではないでしょうか。

 そのGAFAMの業績に、陰りが出てきているというのです。確かに、グーグルの親会社であるアルファベットや、アマゾンでは2022年の売上高は前年を上回ったものの、純利益が落ちたりマイナスになりました。こうした業績悪化を受けて、GAFAMでもここ数年にない大規模なリストラが行われています。

 だからといってGAFAMが冬の時代に突入した、などと短絡的にいえるのでしょうか

 企業の価値や規模を評価するときの指標である時価総額は、GAFAMだけで6.7兆ドルになります。日本のすべての企業の時価総額をあわせると6〜7兆ドルとされていますから、GAFAMがいかに大規模で、そしていかに価値のある企業なのかがわかります。

 確かに2023年になってからも、テック業界に関するさまざまなネガティブなニュースが飛び込んできています。たとえば、2022年第4四半期の世界のパソコン出荷台数が、前年同期に比べて27.8%減と過去最大の下落だったというニュースが流れ、とうとうパソコンの時代が終わったと解説されていました。アメリカの調査会社であるガートナーからは、2023年にはパソコン、スマートフォン、タブレットなどの出荷台数が2022年実績を下回る見通しだとの予測も出ています。

 2023年3月には、米西海岸シリコンバレーにあるシリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻し、米連邦預金保険公社の管理下に入ったことが伝えられました。シリコンバレーバンクは米テック企業への融資で知られており、2008年のリーマン・ブラザーズ破綻に次ぐ規模だったため、テック企業への波及が心配されています。

 シリコンバレーバンクには約4万社もの顧客がおり、その多くがテック関連企業だとされています。これらのテック企業が、世界中の人々の日常生活に深く関わってきているわけですから、多くの人たちの生活にも直接的、間接的に影響が出てくるわけです。

 悪いニュースばかりではありません。22年11月に公開されたオープンAIのチャットGPTが瞬く間に人気となり、マイクロソフトの検索サービス「ビング」にこのチャットGPTが盛り込まれ、「検索」が新たな局面を迎えています。質問すれば自然な言葉で回答してくれるこの人工知能チャットボットの出現は、大きな危険性も指摘されていることから注意も必要ですが、仕事の生産性を飛躍的に高めるなど、ビジネスに革命をもたらすと予想されます。

 オープンAIやマイクロソフトばかりでなく、グーグルもアマゾンも、そしてテスラを率いるイーロン・マスクさえも、生成AIを利用した何らかのサービスを考えています。

 確かに「冬の時代」といわれるように、GAFAMの業績は低下しつつあります。株価も下がりぎみで、経済全般を見ればドル高の影響や、広告費の減少といったマイナス要因も影響しています。

 さらに新しいサービスやテック企業の出現で、方向転換を強いられている企業もあります。典型例がメタです。若者の間ではフェイスブック離れが進行し、代わってティックトックのようなSNSが流行。フェイスブックはメタ・プラットフォームズに社名まで変え、メタバースという新しい分野に再起をかけるようです。

 このようにひと口にGAFAMといっても、それぞれの企業によって目指すところも業績も、あるいは経営方針も社風も、すべて異なっています。そこで本書では、GAFAMと一括にまとめられるビッグ・テック企業を、それぞれの社に焦点を当てて現状を分析し、プラス面もマイナス面も含め、さらに将来への展望まで含めて解説してみました。さらにGAFAM5社に加えて、テスラについても解説しました

 テスラは電気自動車のメーカーですが、それだけではありません。クリーンエネルギーのエコシステムを作り出し、さらにGAFAMに劣らぬテクノロジーを生み出している企業なのです。

 「冬の時代」といわれるように、ビッグ・テックと呼ばれるGAFAM帝国は衰退への道をたどろうとしているのでしょうか。あるいは、新たな強固な帝国を築き上げようとしているのでしょうか。GAFAM+テスラという6社の現状を分析すれば、テック業界や関連するさまざまな業界の「今」が理解でき、さらに未来も見通せるのです

GAFAMが軒並みレイオフを実施

 2023年1月に、米ラスベガスでCES 2023が開催されました。新型コロナウイルスの影響で、前年はオンラインでの参加でしたが、今回はリアルで参加しました。このCESのいたるところで耳にしたのが、「コロナブーメラン効果」という言葉でした。

 CESは、世界最大級のテクノロジーショーです。このCESも、2020年初頭に始まった新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックで、2020年にはリアルで開催されたものの、翌2021年は完全オンラインで、2022年にはリアルとオンラインが半々で開催という状況でした。2023年になって、ようやく私も3年ぶりにリアルでの参加となったのです。

 このコロナ禍で影響を受けたのは、もちろんCESだけではありません。CESに出展している世界中のテック企業も、大きく影響を受けてきました。ただし、多くのテック企業にとってコロナは「コロナ特需」とも呼べるもので、巣ごもりやリモートワークの影響でハードやソフト、サービスなどの売上増に結びついたものでした。

 そのコロナ特需は、人々がウイズコロナに移行することによって、その反動とも呼べる「コロナブーメラン」となって返ってきたのです。そのことを端的に表しているのが、2022年半ばから2023年初頭にかけてのリストラです。グーグル(Google)で1万2千人、マイクロソフト(Microsoft)社で1万1千人、アマゾン(Amazon)にいたっては1万8千人の人員削減が行われたのです。

 もちろん、コロナブーメラン効果だけではなく、景気後退懸念による広告費削減の影響や、過大投資による余剰キャパシティー、顧客離れなどの問題もあります。しかし、2022年のアメリカのテック企業では、合計で約10万人の人材が削減されているのです。これは前年比7.5倍にもなる数字です。

図1-1 テック業界のリストラの推移
図1-1 テック業界のリストラの推移

 こんなところから「コロナブーメラン効果」という言葉が出てきたのでしょうが、米テック企業の代表であるGAFAMが軒並みレイオフを実施し、減益となっているのです。

 GAFAMの5社がそろって減益というのは、1年前までなら考えられなかったような光景です。景気減速やサプライチェーン問題などの影響もありますが、これは世界のビッグ・テックGAFAMの凋落への端緒でしょうか──。

 そんなことはありません。たとえばマイクロソフト社は、2023年1月に人工知能チャットボットのチャットGPT(ChatGPT)を、同社の検索サービスBing(以下、ビングと表記)に融合させた「新しいビング」のサービスを開始しました。検索サービスでグーグルの後塵を拝していたビングですが、いち早くAIを取り込むことで、"打倒グーグル"を目指して激しく追い上げようとしています。

 2021年10月に、社名を「メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms.Inc.)」に変更したSNSの老舗フェイスブック(Facebook)は、社名通りメタバースに大きく舵かじを切ろうとしています。メタバースとはコンピュータ内に構築された仮想空間やそのサービスのことで、ある調査によればその市場規模は2025年には50兆円に、2030年にはなんと1千兆円もの規模になると予測されています。

 これらのAIやメタバースの分野でも、ビッグ・テックのGAFAMが大きな存在感を示しているのです。コロナブーメラン効果による大規模リストラや減益という局面でも、GAFAMの現状やその目指すところを分析・考察・予測するのは、今後の世界経済を読み解く上で、これまで以上の重要さを持ってきているのです。

GAFAMの四半期売上高

 GAFAMがいかに巨大な企業かはいうまでもありませんが、しかし前述したように2023年にはコロナブーメラン効果によって、その業績にも陰りが見え隠れしてきました。

 2023年初頭には、GAFAM各社の2022年10〜12月期の業績が発表されました(表1-1)。

表1-1 GAFAM各社の2022年10〜12月期の売上高と純利益
表1-1 GAFAM各社の2022年10〜12月期の売上高と純利益

 さらに過去4年間の売上高(表1-2)を見ると、コロナ禍にもかかわらず各社ともに順調に売上を伸ばしているように見えます。

表1-2 GAFAM各社の売上高の推移
表1-2 GAFAM各社の売上高の推移

 これがビッグ・テックの"コロナ特需"といわれるゆえんです。2010年代頃からテック企業に金が集まり始め、中でもGAFAMは群を抜いて業績を伸ばしてきました。

 実際、売上高だけで見れば、GAFAM5社の合計はこの4年間で8千億〜1兆5千億ドルへと推移しています。ところが、実際の各社の利益を見ると、2022年から減収にはなっていないものの、その伸び、つまり成長率が落ちてきているのです。

 そのため、この減益を「コロナブーメラン効果」と呼び、さらに「冬の時代」などという声も出始めています。「冬の時代」とは、すなわちGAFAMのブームが去り、各社の業績が低調になり、衰退に向かうのではないかという意味です。

 実際にGAFAM各社の年間売上高を見ると、2022年度の売上高はグーグルが前年比112%、アップルが同じく前年比108%、マイクロソフトが118%、メタに至っては前年比99%とマイナスになっているのです。

 この成長率の鈍化は、もちろん株価にも影響が出てきます。2022年にはグーグルやアマゾンの株価は20%以上も下がったといわれています。株価の下落と成長率の低下、そして業績の低迷によって、GAFAMはまさに冬の時代に突入しようとしている、と推測されているのです。

 もちろん、ドル高の影響やコロナ禍による広告費の減少といった要因も無視できません。実際の数値以上に業績の悪化が懸念され、さらにそれが株価の下落にも結びついていきます。

 GAFAMは、グーグルの検索プラットフォームや、アップルのハードウェア向けのアプリやコンテンツのプラットフォーム、アマゾンのネットショップのプラットフォームなど、いずれも独自のプラットフォームを展開することで、大きな利益を上げてきました。

 ところが2020年代になってメタバースやAIといった新たな技術やサービスが出現し、これらのプラットフォームを作り出すようなテック企業も出現してきました。これらの新しいプラットフォームの台頭、さらにスマホアプリの配布や販売に対する公正取引委員会による規制強化、そして人材不足や企業文化の変化といった複数の要因により、巨大になり過ぎた恐竜がやがて絶滅したように、GAFAMもまた冬の時代に突入し、やがて解体・衰退していくのではないか、それがコロナブーメラン効果後の懸念として出てきているのです。

2022年の解雇は13倍に

 GAFAMが衰退し始めているのではないかという懸念は、従業員の大幅解雇という動きにも見られます。

 グーグルは23年1月、全世界で1万2千人を解雇すると発表して大きな話題となりました。「2週間以内に退職を決めた場合、退職金を増額する」などと書かれたメールが一部の社員に届き、ある日突然、社員証が無効になって会社にすら入れなくなった、などという話がまことしやかに流れていました。日本ではとうてい考えられない状況ですが、日本のグーグルの合同会社でもメール1通で解雇といった、似たような状況が訪れる可能性も 高いようです。

 アマゾンでは1万8千人の従業員を解雇する計画が発表され、2023年1月には影響を受ける従業員に通知するとアンディ・ジャシーCEOが発表しています。さらに3月には、人事、広告などを中心にさらに9千人のレイオフを発表しています。

 もともとアマゾンでは、2019年末に79万8千人の従業員がいましたが、コロナ禍でオンラインサービスの需要が急増し、これに対応するために人員を増やした結果、2021年末には160万人とほぼ倍増していました。2022年から2023年にかけての大規模なレイオフは、こうして膨れ上がった人員を整理し、アマゾンをスリム化するために必要な措置なのでしょう。

 メタでは2022年11月に、従業員の13%に相当する1万1千人の削減を実施し、さらに年が明けた1月にも新たに1万人を削減すると発表。この2回の削減で、なんと2万人以上もの解雇となる見通しです(表1-3)。

表1-3 米大手テックの主なレイオフ
表1-3 米大手テックの主なレイオフ

 従業員の解雇は、もちろん業績が低下してきたからという理由だけではありません。コロナ特需によって、多くのテック企業が過剰な設備投資を行い、従業員を増やしてきましたが、コロナブーメラン効果とアメリカでの人件費の高騰、さらにドル高や広告費の減少などで、増やし過ぎた従業員を削減する必要が出てきたのです。

 グーグルの親会社であるアルファベットのCEOサンダー・ピチャイは、解雇につながる不手際について、「過去2年間、我々は劇的な成長を遂げ、その成長に合わせて人材を採用してきたが、この決断(大幅な人員削減)はすべて私が全責任を負っている」とその不手際を公式に説明しています。

 メタもまた、マーク・ザッカーバーグCEOが「マクロ経済の悪化や競争の激化などにより、収益が予想していたよりもはるかに少なくなる。これは私の失敗で、その責任を取る」と従業員宛てのメモで人員削減の理由を述べています。

 ザッカーバーグはまた、「成長を楽観視して拡大し過ぎた」とも述べており、コロナ禍での安易な拡大が過剰で、そのためにコロナブーメラン効果によって人員整理を余儀なくされているのです。これはメタに限らず、多くのテック企業が直面している問題です。

 ビッグ・テックを中心に、2022年にはテック企業の解雇人数は、前年に比べ13倍にも膨れ上がっています。

 ただし、それが悪いことだとは一概にはいえません。というのも、解雇された技術者の実に80%以上が3カ月以内に再就職しており、給与水準も解雇前とほとんど変わらない、という調査結果(米人材サービス会社ジップリクルーター調べ)も出ているからです。

 これらの技術者が、新たなスタートアップ企業や異業種に再就職、あるいは起業することで、ビッグ・テックとはまた異なる新しいテクノロジー分野が開拓されていきます。実際、従来のビッグ・テックとは異なる分野、たとえばAIやメタバース(仮想空間)といった新しい分野が台頭しつつあり、新たなプラットフォーム作りも進行しています。

 テック業界で人材が循環すれば、次世代の新しいイノベーションが開拓され、広がっていく可能性も高いのです

テクノロジーを現実に展開する時代に

 23年にラスベガスで開催されたCES 2023では、「コロナブーメラン効果」という言葉をあちこちでよく耳にしたと本章の冒頭で述べました。テック業界の23年幕開けを象徴する言葉ですが、このCESには開催された年によって、それぞれ大きなテーマが見えてきます。

 たとえば、5年前の18年に開催されたCES 2018は、「つながる時代」を現していました。

 この年のCESには、グーグルが初めて参加しています。前年のCES 2017ではアマゾンがアレクサ(Amazon Alexa)を発表し、ガジェットや家電、自動車などあらゆるモノと連携していましたが、CES 2018ではグーグルがグーグル・アシスタント(Google Assistant)を発表し、音声対話による家電の制御を披露しています。家電や自動車、あるいは家(スマートホーム)などの制御も視野に、まさにモノとモノが「つながる時代」を体現してみせたのです。

 翌2019年のCES 2019は、世界150カ国から18万人、スタートアップも1200社以上が参加し、デジタルそのものから「データの時代」への突入を示唆していました。主役は5Gと自動運転。AIやビッグデータを駆使したサービスなどが各社から発表され、データの価値や活用方法、さらにそのエコシステムの未来を提言しています。

 2020年のCESで大きなテーマとなったのは、「データとプライバシー両立の時代」です。このCESで最も注目を集めたのが、初日に行われた「チーフプライバシーオフィサー・ラウンドテーブル:消費者は何を求めているのか?(What Do Consumers Want?)」というパネルディスカッションでした。アップルとフェイスブックのチーフプライバシーオフィサー(CPO)、それに連邦取引委員会(FTC)のコミッショナーなどが登壇し、ユーザーなどから収集した膨大な個人データをどう扱うかといった問題の講演が行われました。

 ちょうどフェイスブックが個人データ流出事件の渦中にあり、プライバシー保護への対応強化を打ち出すなど、この頃からデータとプライバシーをどう両立させていくかという課題に、ビッグ・テックも否応なく取り組まざるを得ない状況になってきました。

 2021年のCESは、2020年初頭から始まったコロナ禍で開催が危ぶまれましたが、完全オンライン化することで開催されました。参加企業は約1700社。前年の4400社と比較すると大きく減っていますが、その分各社とも工夫を凝らしていました。

 コロナ禍は、テック企業にとってはテクノロジーを進化させるチャンスで、ズーム(ZOOM)に代表されるウェブ会議システムがいくつも出現しています。グーグルのグーグルミート(Google Meet)、マイクロソフトのチームズ(Teams)、フェイスブックのメッセンジャー・ルーム(Messenger Rooms)など、ビッグ・テックもこぞってウェブ会議システム、あるいはリモートワークソフトなどを広めています。

 さらにリモートワークのために、パソコンや周辺機器の売れ行きも良く、まさにコロナ特需とも呼べる状態で、従業員の増員、新たな設備投資などへとつながっていきます。

 2022年のCES 2022は、サステナビリティが注目されました。コロナ禍が続いたため、オンラインとリアルとが半々というハイブリッド開催のCESでしたが、Transportation、Space Tech、Sustainability Technology、Digital Healthの4つの領域が特に注目されて います。

 Transportationでは電気自動車、マイクロモビリティソリューションが、Space Techでは宇宙探査や宇宙旅行など、宇宙での活動で利用されるテクノロジー全般をテーマとしています。

 Sustainability Technologyというのは代替エネルギーやスマートシティ、スマートホーム、それにフードテックなどの分野の出展でしたが、この年のCESでは特にサステナビリティ、つまり持続可能性を意識した内容が非常に多く出展されていました。

 最後のDigital Healthは、文字通りデジタルヘルスで、ウェアラブル、メンタルアウェアネスといった分野です。この分野の展示はいつも多いのですが、2022年のCESでは417社もの展示がありました。

 そしてCES 2023。CESは3~5年後の未来を見据えた技術や製品の展示が多いのですが、2023年のCESでは現在進行形のものを展示する企業が増え、テクノロジーを現実に展開する時代の幕開けを感じさせられました。

 キーとなるのは、Enterprise Tech Innovation、Metaverse/Web3、Transportation/Mobility、Health Technology、Sustainability、Gaming and Servicesの6つですが、この中でも特にメタバースとウェブ3、モビリティの3点が目玉です。

 CES 2023を見る限り、この3つにAIを加えた4つの分野を、特に現在進行系の技術や製品として注視しておく必要があるでしょう。

テックの目玉になったモビリティ

 CES 2023のテーマのひとつに、モビリティがありました。モビリティとは、もちろん移動を意味するもので、CESではモビリティ企業、つまり自動車メーカーからの出展なども目立ちました。

 モビリティとはいっても、単に自動車だけではありません。自動車を構成している部品やその部品のサプライチェーン(供給網)、さらに現在自動車メーカーが直面しているEV車や自動運転、EV車を動かすための電気、それを充電するスタンドや蓄電池といったものも、モビリティ関連の製品です。

 実際にCES 2023の会場を見て回ったところ、さながら自動車の展示会かと見まごうほどでした。今回話題になっていたのは、次世代モビリティの概念として使われているSDV(Software Defined Vehicle)という言葉でした。

 SDVとは、ソフトウェアによって自動車の機能をアップデートすることを前提として設計・開発された自動車のことで、対応する自動車を購入すれば、その後もソフトウェアのアップデートによって、常に新しい機能やサービスが利用できるようになります。

 このSDVが今後主流になっていくとすれば、自動車にとって重要なのは、ハードウェアとしての車体やエンジンではなく、それらを統括し、動かすためのソフトウェアということになります。

 つまり、自動車メーカーはハードウェアとしての自動車を作るのではなく、それを動かすためのソトフウェアを開発し、そのソフトウェアで動く自動車を設計・開発していく必要に迫られているのです。

 今回のCESでは、メルセデス・ベンツが自社ブースで発表会を行い、2023年から全米でEVバッテリーステーションを展開することを発表していました。このEVステーションは、現在のガソリンスタンドのようなものにコンビニを完備し、次世代地域コミュニティを目指したようなものになるようです。

 さらに、自動運転によって運転から解放されたドライバーが、レベル3の世界でどのように過ごすかを具体的に提示してもいました。

 モビリティの中心である自動車は、ハードからソフトへと転換しようとしていますが、それは言い換えればある面でテック企業への転身と捉えることもできます。そしてこの自動車メーカーのテック化で最先端を走っているのが、世界中でEV車を製造・販売しているテスラなのです。

 第7章でテスラについて詳しく説明しますが、テスラはモビリティ企業でありながら、ビッグ・テックにも迫るほどのテック企業でもあります。EV車を軸に、クリーンエネルギーを作り、使い、蓄えるという、まさにクリーンエネルギーのエコシステムを作り上げた企業です。

 そこで本書では、ビッグ・テックと呼ばれるGAFAM5社と、この5社に迫ろうともする勢いのあるテスラの計6社を取り上げ、各社がどの分野でどのように取り組み、どう進展していこうとしているのか、その戦略を詳しく見ていくことにします。

GAFAM+テスラ 帝国の存亡 ビッグ・テック企業の未来はどうなるのか?

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著者:田中道昭
発売日:2023年6月12日(月)
定価:1,760円(本体1,600円+税10%)

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