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アントレプレナーシップ教育で想像力を育むための「遊び」の演習──コラボレーション・アートのやり方

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 アントレプレナーシップ教育で世界的に高い評価を得ているアメリカのバブソン大学では、ユニークな演習として「遊び」が取り入れられています。その目的は「自由で想像力豊かな心を育むことであり、可能性や機会、そしてアントレプレナーらしくなるためのより革新的な方法への道筋が見えるようにすること」と、同大学のカリキュラムを1冊にまとめた『世界一のアントレプレナーシップ育成プログラム』(翔泳社)にかかれています。今回は本書から、「遊び」の演習の1つである「コラボレーション・アート」のやり方を紹介します。

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 本記事は『世界一のアントレプレナーシップ育成プログラム 革新的事業を実現させるための必須演習43』の「第3章 「遊び」の実践演習」から抜粋したものです。掲載にあたって一部を編集しています。

コラボレーション・アート

アントレプレナーシップにおける主要テーマ

 デザイン思考、アントレプレナー的チーム、マインドセット

説明

 本演習はチームで行います。受講生には、短い時間で“共同で”アート・プロジェクトの制作をしてもらいます。受講生には、制作過程を楽しむよ うに促します 。制作過程では、各人は一度に1本しか線を引くことができません。作品が“できあがり”、その中で成果が明確ではないときに、どのようにチームが協力し、プロジェクトを管理したかを検討する機会が生まれます。

 本演習は、成果が不明な場合の創造の論理に基づいています。手段を重視した演習により、参加者はお互いの貢献を足掛かりにすることができ、作品は各人が全体に加筆するにつれて発展していきます。

利用例

 対象となるのはあらゆる参加者、受講生、実務家です。本演習を行う時期は、学期のはじめや、お互いのことをあまり知らない新しいグループに適しています。参加者の規模は、20~60人が最適です。本演習は、受講生が新しいグループに入った際の緊張をほぐすための活動としても活用できます。

実践方法

 対面

学習目標

  • 創造的活動においてメンバーの役割がどのように明らかになっていくかを特定する。
  • どのように集団力学が具体化し、創造的プロジェクトの成果に影響を及ぼすかについて探求する。
  • コラボレーションにより制作した絵(作品)を通じて、創造力を培う。

理論的基礎と参考文献

-Neck, H.M, C.P. Neck and E.L. Murray (2020), Entrepreneurship: The Practice and Mindset, 2nd edn, Los Angeles, CA: Sage, pp. 2-29
-Noyes, E. and C. Brush (2012), ‘Teaching entrepreneurial action: application of creative logic’, in A.C. Corbett and J.A. Katz (eds), Entrepreneurial Action: Advances in Entrepreneurship and Firm Emergence and Growth, Bingley: Emerald, pp. 253-80.
-Sarasvathy, S.D. (2001), ‘Causation and effectuation: toward a theoretical shift from economic inevitability to entrepreneurial contingency’, Academy of Management Review, 26 (2), 243-63.

教材リスト

  • 複数色の油性マーカー(各グループに6~8本のセット)
  • 各グループにフリップチャート1セット
  • A4大の紙に描かれた様々なイラスト(各グループに1点)の写し

 グループによって絵は異なる方が望ましいですが、全てのグループで同じ絵を用いても構いません。

受講者に求められる事前作業

 なし

タイムプラン(60分)

0:00 - 0:03

 はじめに、本演習がチームでの演習であり、目的は共同作業を通じて独創的な絵を描くことであることを説明してください。本演習は2部構成になります。

0:03 - 0:06

 数字を使って分けるか、別の方法により、クラスを4~6人の参加者からなるグループに分けてください。各グループに、油性マーカーのセットと 大きなフリップチャート2枚を渡してください。

0:06 - 0:10

 本演習の第1部として、配布したA4大の紙に描かれた絵を可能な限り「まね」させてください。この絵を「まね」する時間は3分間です。

0:10 - 0:12

 各グループに元の絵と再現した絵を共有するよう指示してください。

0:12 - 0:23 振り返り

  • どのようにこの課題に取り組みましたか。はじめに何をしましたか。
  • 計画は立てましたか。
  • どこから描き始めましたか。
  • 誰かが主導しましたか。課題や絵の部分を分担することについて話し合いましたか。
  • 「正確」に描くことを気にかけていましたか。それとも創作を混ぜましたか。その理由は何ですか。
  • 明確な成果物があることは役に立ちましたか。

 この振り返りでは、計画的な行動の例と、計画を立てることで複製が成功したか否かについて探ってください。描くことよりも計画を立てることの方に多くの時間を割いたチームはありましたか。

 誰かがプロセスを主導したか否か、そうすることでよりコラボレーションが進んだか否かについて探ってください。

0:23 - 0:24

 本演習の第2部に進みます。第2部では、作品が登場して、各グループが独創的な絵を描くプロセスについて検討します。

 PowerPointのスライドか配布資料を使って、以下の指示を行ってください。PowerPointのスライドを使って説明する場合、演習中は常にスライドを画面に映したままにしてください。各グループに5分で絵を完成させるように指示してください。

  • 1人が1色ずつマーカーを取ってください。
  • 1番目の人が大きなフリップチャートに曲線、直線あるいは図形を描いてください。
  • フリップチャートを隣の人に渡し、線を1本加えてください。ただし、線が交わらないようにしてください。隣の人にフリップチャートを渡し、全員が描くまで続けてください。
  • 2分が経過するまでの間に、可能な限り多く、グループ内全員にフリップチャートを回してください。ただし、線が交わらないようにしてください。創作過程には常に制約、あるいは制限要因があります。受講生に対し線が交わらないように描かせることが重要です。

0:24 - 0:34

 参加者に上記の指示を実施させてください。

0:34 - 0:36

 次に、クラスに1点追加の指示を出してください。

「グループで、コラボレーションによる絵を観察し、作品にタイトルを付けてください」

0:36 - 0:50 振り返り

  • うまくいきましたか。
  • あなたの行ったプロセスは何でしたか。
  • 演習中、話をしましたか。その理由は何ですか。
  • 誰かがデザインについてオーナーシップとリーダーシップを発揮し、他のメンバーに何をすべきか指示をしましたか。
  • リーダーがとった方向性は満足できるものでしたか。それとも方向性について議論しましたか。どのようにビジョンは伝達されましたか。それともビジョンはコラボレーションを通じて議論し、合意したものでしたか。
  • 最初に「描いた線」は何でしたか。その線は成果物に影響を及ぼしましたか。
  • 他のメンバーはその線に続きましたか。それとも新たな線やデザインを作りましたか。
  • どのような成果物になるのか把握していましたか。そのことで頭を悩ますことはありましたか。
  • 線を交差させないという制約は、デザインを制限しましたか。なぜこの制約を導入したのだと思いますか。
  • 描いた絵に後から「タイトル」を付けることは困難でしたか。
  • どのような成果物を作るのか分かっている方と分からない方、どちらの演習の方がよかったですか。

 この振り返りでは、講師は創造の論理と予測の論理の例を探ってください。一方のアプローチを取る傾向が強いチームはありましたか。また、両方のアプローチを効果的に(あるいは効果的ではない形で)利用したチームはありましたか。

 誰かがリーダーシップを発揮したかどうかを探ってください。誰かが率先して、「自分のビジョン」を実践しようとしましたか。アントレプレナーとの類似点は何ですか。ビジョンは明確に述べられましたか。それとも新興的でしたか。ビジョンは伝達されましたか。

 また、会話をしたか否かについても探ってください。多くの事例において、受講生は静かにしなくてはならないと思い込んでいますが、静かにする必要はありません。なぜ受講生は話さなかったのでしょうか。チーム力学について、競合するアイデアはありましたか。

0:50 - 0:60 まとめ

 本演習から得られる学びは主に3つあります。

  1. チーム力学:不確実な環境があるときは、チームは異なる方法で機能することがあります。すなわち、共同作業によりビジョンを作ったり、あるビジョンに従って構築したり、あるビジョンから始めて発展させたりすることです。新しいグループやチームにとって、これはチームの役割がどのように生まれるのか、曖昧なときに誰がリーダーシップを発揮するのか、そして誰が従うのかを把握する便利な方法となり得ます。
    あるチームメンバーがどの程度「ビジョン」を持ち、どのような絵ができあがりそうか計画を立てようとしたのか。それとも、他のメンバーはただ行動を起こして描き始めたのでしょうか。
  2. 観察と注意力:誰かが描いているとき、他のチームメンバーは注意を払い、最初の人の創造的な作業を観察し、それを基にしてどのように事を進められるのかじっくり考える必要があります。じっくり観察することは、共感の根底です。ある人に対して観察のための関心を払い、じっくり観察すればするほど、共感によるつながりは一層強いものになります。
  3. 創造の論理:予測の論理とは異なり、成果は不確実です。本演習は「目的重視」というよりも、「手段重視」の演習です。予測の論理では様々なモデルの選択肢があり、(メリットとデメリットを)評価し、選択を行い、行動を起こし、実行します。これは「計画的な」アプローチであり、計画プロセスに従うことで、望ましい成果が得られます。
    創造の論理では、自分の持っているものと知っていることから始めます。観察と振り返りを行い、他の人々を巻き込んで行動を起こします。成果は既知のものというより、表れてくるものです。創造の論理は、計画的なアプローチというよりは、行動のアプローチであることを意味します。
    同様に、新たな事業を立ち上げるとき、事業を立ち上げているということは分かっていても、その過程で実際に講じるステップがその成果を決め、あるいは再定義することになります。チームメンバーのインプットを踏まえ、ビジョンとその後の実行によって展開されます。表を参照してください。
予想の論理対創造の論理
予想の論理対創造の論理

受講者に求められる演習後の作業

 受講生はチーム内で起きた力学について振り返るとよいでしょう。何がうまくいって、何がうまくいきませんでしたか。誰がどのような役割を果たしましたか。行動を起こす前に計画を立てる方が、単にすぐに始めて作業する中で学んでいくよりも安心できましたか。チームの機能について、どのような結論が得られますか。チームのコラボレーション能力を向上させるために取り組むべきことはありますか。新たなベンチャーを立ち上げるとしたら、チームの契約にどのような労働規則を盛り込みたいと思いますか。

指導のヒント

バリエーション:チーム構築の取り組みにより重点を置きたい場合は、2番目の演習を3分間でチーム全員が同時にフリップチャートに描くように実施してください。ただし、線を交差させてはいけません。これにより、本演習は15分間長くなります。また、これはチームによる2番目の演習よりも前に行うべきです。振り返りは次のようになります。

  • 誰かがビジョンを持っていましたか。何を描くのかについてどのように決めましたか。
  • 描く内容について計画を立てましたか。それとも計画を立てずに描きましたか。(予測のアプローチでしたか、それとも創造のアプローチでしたか)
  • 何を描いているのか話しましたか。それとも単独で描きましたか。(ビジョンはまとまっていましたか、それとも断片化していましたか)
  • チームメンバーで作業を分担しましたか。
  • 新たなベンチャーの立ち上げにどのような影響があると思いますか。

出典

 本演習は、2006年8月にミシガン州で行われたケロッグ・コミュニティ・パートナーズ青少年市民参加プログラムの論理モデル開発に基づいた、健全な学校に関する青少年諮問委員会地域連合による取り組みを改良したものです。

世界一のアントレプレナーシップ育成プログラム 革新的事業を実現させるための必須演習43

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世界一のアントレプレナーシップ育成プログラム
革新的事業を実現させるための必須演習43

著者:ハイディ・M・ネック、カンディダ・G・ブラッシュ、パトリシア・ G ・グリーン
翻訳:島岡未来子、朝日透、山川恭弘、T-UNITE+チーム
監修:島岡未来子、朝日透、山川恭弘
発売日:2023年12月18日(月)
定価:2,970円(本体2,700円+税10%)

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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