「印刷」を中心に事業領域を拡大し続けてきた老舗企業
1876年に創業し、もうすぐ150周年を迎える老舗企業の大日本印刷(DNP)。社名にもなっている「印刷」は内需型の産業だと思われがちだが、同社は日本だけでなく国外に17の拠点を展開しており、海外売上の全社構成比も2割超に上る。
金沢貴人氏はDNPの歴史を振り返り、同社が出版印刷専業だったのは創業から最初の75年ほど、つまり全体の歴史の中の半分程度だったと語る。
「長い歴史のうち、雑誌や書籍の印刷といった出版印刷をメインに展開してきたのは75年ほど。その後は、出版印刷に限定した事業展開に危機感を持ち、強みであった印刷技術を組み合わせて事業領域を拡大していきました」
たとえば、1951年には紙器事業に本格参入。その後もリチウムイオンバッテリーの外装材であるバッテリーパウチや住宅内装材などに業容を拡大し、現在では1兆円超に上る同社の売上高のうち、3割を占める「ライフ&ヘルスケア部門」へと成長した。
そして1958年には、カラーテレビ用部材の「シャドウマスク」を試作することに成功。ディスプレイ用の光学フィルムや有機ELディスプレイ製造用の部材など、売上高の15%を占める「エレクトロニクス部門」のルーツとなる出来事となった。
このように、DNPは「企画・設計」「情報処理」「微細加工」「精密塗工」「後加工」といった印刷の各プロセスで得た基礎技術に磨きをかけながら、社会課題を解決するような新たな価値の創出に注力してきたのだという。
それと並行して進めてきたのが、デジタル化の取り組みだ。1972年には、それまで手作業だった印刷用の原版(組版)作成業務をデジタル化する「CTS(コンピュータ組版)」を開発。そこから原稿データの二次活用が進み、電子辞書・電子書籍事業などのビジネスへと発展していった。
直近では、こうした印刷と情報の強みを組み合わせた取り組みを「P&Iイノベーション」と表現し、事業ビジョンにも設定している。金沢氏は「2015年にビジョンとして策定してからは、従来の受注体質を脱却し、社会課題を解決する新たな価値を生み出す意識がグループ全体に広がっている」と話す。
現在は、2023年度に始まった中期経営計画の真っ只中だ。DNPが目指す姿として、早期に「営業利益1,300億円以上」「自己資本1兆円」「ROE10%」の実現を目指し、事業・財務・非財務の3点で戦略を推進している。
事業戦略では、成長をけん引する事業として「デジタルインターフェース関連」「半導体関連」「モビリティ・産業用高機能材関連」の3つとともに、新規事業として「コンテンツ・XRコミュニケーション関連」「メディカル・ヘルスケア関連」の2つを加えた5つの主要製品・サービスを注力事業領域に定め、集中投資を行う。
財務戦略では、事業活動で創出したキャッシュフローと資産効率の改善をしながら、2023年~27年度の5年間で3,900億円以上の事業投資を行う予定だ。非財務戦略としては、特に新規事業の創出に向けた人材採用に注力するという。内部での教育だけでなく、外部からのキャリア採用にも積極的に乗り出し、高度な専門人材の獲得を推進している。