DXの目的をコストカットから価値創出へアップデートするには
藤井:とはいえ、DXやUXデザインは、単なるデジタル化とは趣が異なりますよね。その点まで含めて、理解を得られていたわけですか。
高橋:そこまで理解を得られていたかは分かりません。理解のレベルにバラつきがあるのは仕方がないですし、仮に上層部が完璧に理解してくれていたとしても、実際の取り組みを進めるには現場のメンバーにも理解を得なければいけないので。総論として横串組織の活動には賛成でも、各論的な個別の活動に反発が生まれるのは仕方ないことかなと。
理解を得にくかったポイントとしては、DXの目的が「コストカット」と捉えられがちな点ですね。特に階層が上がるほど、生産性向上や人員削減に意識が向かいがちな印象です。もちろんコストカットは重要なんですが、価値創出やエンゲージメントの向上といったDXの効果にも目が向かないと、専門組織を設置できても個別の施策の理解が得られないということもあり得ます。このジレンマは今現在、痛感しているところですね。
藤井:しかし、「UX Strategy & Design部」という名称からは、DXの意義をコストカットに留まらない活動として捉えていることが伺えます。このネーミングが受け入れられる時点で、LIXILでは一定以上のレベルでDXが理解されているのではないかなと。
高橋:よくぞ気が付いてくれました(笑)。この名称は私が考えたんです。DXグループやUXチームといった表面的なものではなくて、明確な意図のある名称にしたかったので。そう考えた時ときに、やはりStrategy(戦略)を構想して実行する組織でありたいと思ったし、組織や顧客体験をデザインするような役割も担うべきだと。
デザインってカタカナにすると、どうしてもグラフィックや造形物のデザインがイメージされますよね。でも、英語の「Design」はもっと多義的な意味を含んでいます。その意味合いでのDesignを実践する組織でありたいなと思いました。
藤井:「Design」は中国語では「設計」と訳されるんですよ。カタカナの「デザイン」よりも、「設計」のほうが、英語圏におけるデザインの意味合いを正しく捉えていると思います。戦略設計、組織設計、商品設計など、物事を構想して実践する活動は総じて「Design」です。UX Strategy & Design部という名称についても、単なるデジタル化を担うのではなく、DXやUXの戦略を構想し、実行していくための部署という意図が込められているわけですね。