LIXILはなぜ「DXのゾンビ化」を回避できたのか
藤井:UX Strategy & Design部の具体的な役割やミッションは何なんでしょう。
高橋:担当業務は、販売工務店や設計事務所、流通店などのプロユーザー向けに展開しているサービスの開発や運用、データの整備です。より具体的にいえば、会社が保有するデジタルコンテンツを管理するDAM(Digital Asset Management)と、商品情報を管理するPIM(Product Information Management)を担います。それらの活動を通じて、従来は社内にバラバラに存在していた顧客接点を繋ぎ合わせ、カスタマージャーニーに沿う形で体系化するのがミッションです。
ただ、まだ設置されて1年にも満たない部署ですから、現状は横串での活動を実践しつつ、組織としての体制づくりを進めている状況です。ミッションの実現にフォーカスして活動できるまでには、まだ多少の時間を要するかなと思います。
藤井:以前は、高橋さんが個人で行っていた活動を組織化したわけですね。現在の人員はどのくらいですか。
高橋:40名くらいです。たまたまUX Strategy & Design部を立ち上げる際に、前身となる部署の部長が退任されたので、そのポジションに私が収まり、上席の統括部長と協議して部署の役割を一新しました。一からメンバーを増やしていくのでは時間がかかりすぎることもとあり、既存の部署を新組織に移行できたのは幸運だったと思います。
藤井:なるほど。お話をお伺いしていると「社内からの理解の深さ」にすごく特徴があるように感じます。
高橋:そうなんです。その点は、本当にラッキーだったと思っています。
藤井:この連載では、「DXのゾンビ化[1]」について度々取り上げています。顧客接点のデジタル化やデータ基盤の整備といった個別のDX施策は、一通りの企業が取り組むようになりました。しかし、そこに顧客体験という視点が欠如しているため、デジタル化はしたものの特段の成果を得られず、逆にコストばかりを浪費してしまう企業が散見されます。これが「DXのゾンビ化」なんですが、この壁を乗り越えるために、私は横串組織が重要だと思っているんです。
バラバラに存在する顧客接点を繋ぎ合わせて、最適な顧客体験を構築するには、部門間や部署間の横断が欠かせません。しかし、これを組織の論理のなかで実践できない企業が少なくない。その点、LIXILは、役員や統括部長からも協力を得て、横串組織であるUX Strategy & Design部を設置しています。なぜ、それが可能だったのかにはすごく興味がありますね。
高橋:まずは経営のトップであるCEOがデジタルに積極的だったというのが大きかったと思います。さらに、私の所属するマーケティング本部の本部長がIT分野の経験が長く、DXやUXデザインにも関心が高かったというのもあります。なので、もともとLIXILは、DXのための横串組織を設けやすい環境だったのではないかなと。実際に、UX Strategy & Design部の設置を最初に提案してくれたのは、私の上司である統括部長でした。DXやUXデザインについて「上層部がわかってくれない」と悩む方が多いのは知っていますが、私に関してはそうした悩みが少なかったかもしれません。
[1]『なぜDXは“ゾンビ化”するのか──ビービット藤井氏に訊く、自社と顧客の理想的な状態を描く体験戦略とは』(Biz/Zine、2024/07/16)