予算権限を持たない横串組織は評価されない
藤井保文氏(以下、敬称略):前編では、UX Strategy & Design部が設立されるまでの経緯をお聞きしましたが、非常に示唆に富む内容だったと思います。外資での経験やUXデザインへの知見を持つマイクさんが、「1人横串組織」として成果を上げるなかで社内から信頼を獲得し、UX組織の設立に至る。これは横串組織を設立する際の成功パターンの一つだと思います。実際に、他の企業でも類似した横串組織の立ち上げ事例を目にします。
しかし、LIXILが特徴的なのは、新設した組織が「UX Strategy & Design部」だという点です。部署名に自らのミッションを「戦略性を持ってUXやデザインを実践すること」だと掲げていますよね。ここには、単に部署間を横断して社内コンサル的に活動するだけではなく、各事業の運営や成長にもコミットする意図が見えます。
高橋マイク氏(以下、敬称略):それは部署を立ち上げた時点でとても意識した部分でした。私自身、「1人横串組織」として活動するなかで「この活動をどうやって評価に繋げればよいのだろう」と頭を悩ませていました。UXデザインは目に見える形で売上や利益に直結する活動ではないので、社内コンサル的な動きを続けていても評価には繋がりにくいわけです。
なので、UX Strategy & Design部を設立する際には、予算の権限を持つことにこだわりました。予算の権限を持って、各事業にしっかりコミットして成長に寄与すれば、評価を得られるだろうと。予算をコントロールせずに、社内コンサル的にいろんなプロジェクトに参画していても、上層部にはどこか無責任に映ってしまうのだと思います。
藤井:日本企業では、横串組織が部署として予算の執行や管理の権限を持つのは稀ですよね。でも、マイクさんは外資での勤務が長いので、その点も経験済みだったと。
高橋:そうですね。ある程度の経験がありました。ただ、まだ設立から1年も経っていないので、数字上の成果を出すのは今後の話です。組織としての横串のスキームを確立して、さらに予算も適切にコントロールできれば、理想的な横串組織を構築できるのではないかと思っています。
藤井:おっしゃる通りですね。もしそれが成功すれば、自律的な変革組織を内製化したことになります。正真正銘のDXの成功事例ですね。今まさに、LIXILはその実現に向けて歩みを進めている最中というわけですね。