「ディープテック」に携わる3者それぞれの立ち位置
鼎談に先立って、まずは自己紹介が行われた。
政府は2022年を「スタートアップ創出元年」とし、スタートアップ政策が「一丁目一番地」のアジェンダに初めてなり、国を挙げて支援に注力するようになった。池田陽子氏は内閣官房の新しい資本主義実現本部事務局で「スタートアップ育成5か年計画」の策定に携わるなど、政府全体のスタートアップ政策を取りまとめてきた。現在は経済産業省で、大企業の存在感が大きい日本社会において、スタートアップをはじめとするイノベーターの参入と成長を支援し、ダイナミックな競争環境の実現を目指すべく奔走している。
今年3月には現役官僚初のルールメイキング本といえる『官民共創のイノベーション 規制のサンドボックスの挑戦とその先』(ベストブック、共編著)を上梓。法規制が昭和のものづくりの時代に最適化されてしまっているといった理由から、AIやブロックチェーンなどの新技術やそれを利用したビジネスモデルがスムーズに社会実装できない状況をどう突破していけばいいのかを示した本である。「ライフワークも含め、10年来スタートアップを応援してきましたが、いま変革の時代にあって、革新的なアイデアを有する方はあらゆるところにいらっしゃるとあらためて実感しています」と池田氏は話す。
松尾一耀氏は大阪大学大学院理学研究科でレーザー核融合の研究に取り組み、博士課程を取得後、カリフォルニア大学サンディエゴ校での勤務を経て2021年に株式会社EX-Fusionというスタートアップを立ち上げるという異色の経歴の持ち主である。2023年に内閣府が「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定したために、核融合反応を使って大規模で脱炭素エネルギーを作ることへの認知は少しずつ高まりつつあるが、同社の目的はレーザーを使って燃料を高圧縮・高エネルギー密度にして、その結果として核融合反応を生み出し、熱として取り出すことで発電するシステムを作ることである。
レーザーフュージョンはごく短時間の核融合反応を繰り返すことで発電量を稼ぐため、繰り返し数を一定にすることで定常的なベースロード電源として運用することも可能だが、繰り返し数を増減させることでピーク電源としても運用することも可能だという大きな利点を持つ。ただ、開発自体は自社のみで進められたとしても、製造段階では大企業との連携が必要だ。またサプライチェーン構築という観点でも連携が必要であると松尾一輝氏は話す。
富士通株式会社の松尾圭祐氏は、同社でスタートアップとのオープンイノベーションプログラム「FUJITSU ACCELERATOR」の企画運営を9年ほど担当している。約240件の協業検討と約120件の協業実績を持ち、新サービスや製品を共同開発したり、富士通チャネルで商品を販売したり、出資検討や社内での有償利用をしたりしている。
現在報道等でよく取り上げられるディープテックには宇宙関連、量子コンピュータや創薬など様々なものがあるが、新エネルギー、特に核融合発電は話題ではないかと松尾圭祐氏は話す。というのは、生成AIが注目を集めるが、AIを活用するにはエネルギーが必要であり、日本の場合、現状では化石燃料を使う以外の打ち手が少ないからだ。「この分野には大きなビジネスチャンスがあります」と主張する。