“過剰な”価値を特定しクイックウィンから始めよ
マーケティングビジョンはどのように策定すれば良いのでしょうか。ここでは三つのステップを紹介します。

ステップ1.現在提供している価値のレビューと過不足の検証
最初のステップは、自社が現在顧客に提供している価値や体験を客観的に分析することです。多くの企業は「自分たちが提供していると思っている価値・体験」と「顧客が実際に感じている価値・体験」のギャップを認識していません。
このステップでは、顧客インタビューによる価値認識の調査、競合比較による独自価値の明確化、非利用顧客(自社の商品・サービスを選ばなかった人々)からの意見の収集を通じて、現状の提供価値を把握します。その上で、顧客にとってそれほど重要ではないが企業側が力を入れている「過剰な価値」と、顧客が求めているが十分に提供できていない「不足している価値」を特定します。
たとえば、ある高級ホテルチェーンが自社の強みとしていた「格式高いサービス」が、実際の顧客には「堅苦しさ」として受け止められており「自分らしく快適に過ごせる空間」という価値が不足していた、という発見があるかもしれません。
ステップ2.未顧客・未来社会の生活者理解に基づく新たな価値の探索
第二のステップは、現在の顧客層を超えた、より広い視野での価値探索です。既存顧客の声だけに耳を傾けていては、市場の構造的変化を捉えることはできません。重要なのは、価値観や生活様式の変化を先取りしている層、現在の商品・サービスでは満足できない理由を持つ層を深く理解することです。
さらに、未来の社会環境変化を見立てることも重要です。人口構造の変化(少子高齢化、単身世帯の増加など)、働き方の変化(リモートワーク、副業の一般化など)、技術進歩の影響(AI、自動運転、メタバースなど)を分析して、未来社会の生活者像を描きます。この理解に基づいて、自社が新たに創造すべき価値や体験の仮説を構築します。
たとえば、高齢化社会において「移動の自由」という価値がより重要になると想定します。その場合、自動車メーカーには単なる「速く走る車」から「安全で快適な移動体験」へと価値提案をシフトさせる、という新たな方向性が見えてくるでしょう。
ステップ3.価値体験の具体設計と実装ロードマップの明確化
第三のステップでは、抽象的な価値アイデアを具体的な顧客体験として設計し、実現への道筋を明確にします。新しい価値提案に基づいて、現時点で実現可能な顧客体験と、将来実装すべき顧客体験を構想し、優先順位付けと段階的実装、必要なケイパビリティ(組織能力)の特定を行います。
ポイントは、全てを一度に実現しようとするのではなく、価値を段階的に具現化するロードマップを描くことです。現在の経営資源で実現できる“クイックウィン”の取り組みから始め、組織能力を徐々に高めながら、より大きな価値創造へと進んでいきます。
投資計画と効果測定の設計も欠かせません。どの時点でどれだけの投資を行い、どのような指標で成果を測定するのか。短期的には従来の売上指標で効果を測定しつつ、中長期的には新たな価値がどれだけ市場に浸透しているかを示す指標(ブランド認知、顧客エンゲージメント、新規顧客層の獲得率など)を設定します。
