企業法務におけるAI活用は「実践」のフェーズへ
冒頭、日本の企業法務における課題とAI活用の現状認識が共有された。三井物産の常務執行役員 ジェネラル・カウンセルであり、経営法友会の代表幹事を務める高野雄市氏は、AI導入の意義を次のように強調した。
「国際競争力強化に向けた法務機能の強化という観点でも、やはりAIの活用は非常に重要なことだと思っています」(高野氏)
企業が競争力を維持していくためには、単なる業務の効率化にとどまらず、法務機能そのものの高度化が必要となる。その実現に向けた中核技術として、AIが明確に位置づけられている。既に法務部門におけるAI導入は、検討の段階をとうに過ぎているのだ。
従来の法務業務は、過去の判例調査や関連法規のリサーチ、契約書の条文確認など、専門知識に基づく情報の精査に多くの時間を費やしてきた。しかし現在の技術発展により、特定領域において技術が人間を上回るパフォーマンスを発揮し始めているという。
「AIのほうが実はよっぽど良いパフォーマンスを出してしまうという現実が、いろいろな分野で起きているというのが現状かと思います」(羽深氏)
京都大学特任教授であり、AIガバナンス協会の代表理事を務める羽深宏樹氏は、高度な知能を持つ専門家にしかできないとされてきた法務領域への影響の大きさを指摘した。
こうした技術の進展を受け、企業法務の現場は変化の渦中にある。AIをどのように業務プロセスへ組み込み、リスクを統制しながら運用していくか。より実践的な段階への移行が求められており、どの分野で活用を進めるべきかという具体的な検討が各企業で始まっているわけだ。
弁護士法72条の壁を越える、新ガイドラインの利用範囲
続いて、AIリーガルテック協会 代表理事でリセ 代表取締役CEOの藤田美樹氏から、法務省が新たに公表したガイドラインの解説が行われた。
リーガルテックサービスの提供において長らく課題となっていたのが、弁護士法72条との関係だ。これは、弁護士または弁護士法人以外の者が報酬を得て法律事件に関して鑑定などを行うことを禁じる「非弁行為」の規定である。AIによる回答生成が、この「事件性」のある案件への介入に該当するのではないかという懸念が存在していた。
藤田氏は、過去に労務のQ&Aサービスを展開しようとした企業が、グレーゾーン解消制度の照会結果を受けて事業を断念した事例に言及した。法的リスクの不確実性が、技術の社会実装を妨げる要因になっていた実態が明らかになった形だ。
今回の新ガイドラインでは、利用範囲について明確な指針が示された。
「BtoBの企業法務の世界においてどこまでAIを使ってよいのかということについて、かなり踏み込んで判断いただいた内容になっています」(藤田氏)
訴訟に発展する直前のような紛争処理、たとえば訴状や和解契約の作成などは利用範囲から除外される。一方で、通常の企業法務業務についてはAIの利用が広く認められる整理がなされたのだ。
日常的に発生する交渉の準備や資料作成についても、テクノロジーの活用が可能とされたのである。
「基準に従ってサービスを提供し、ガバナンスとセットで行っていればよいという道が示されました」(藤田氏)
サービス提供事業者は提供範囲を定めやすくなり、利用者である企業側も、AIを利用できる範囲が明確化されたことによる実務上の影響の大きさを示している。



