米国規制と中国モデルの台頭、無視できないAIの地政学リスク
会場からの「生成AIモデルのサーバー所在地や地政学的なリスクヘッジをどう考えるべきか」という質問に対し、AIモデルをめぐる国際的な動向に関する議論が展開された。
羽深氏は、直近の事例として米国政府が特定企業のAIモデルに対する輸出禁止令を発動し、事実上のアクセス遮断が発生した件に言及した。この措置が世界に与えた影響について、次のように述べている。
「お金さえ払えば、誰もが世界最先端の米国のモデルにアクセスできる時代は終わってしまったというのが、世界に与えた衝撃でした」(羽深氏)
安全保障を理由とした突然のサービス停止リスクが顕在化したできごとと言えよう。
こうした状況の中、中国製のオープンウェイトモデル(パラメータが公開されたAIモデル)の動向が注目を集めている。羽深氏は、リスクヘッジの選択肢として中国製モデルを一部採用することはあり得るとの見解を示した。
「オープンウェイトのものに関してはリスクヘッジとして一部採用するということも十分にあり得ると思いますし、そのときにリスク評価をできるのかどうかというのが、すごくポイントになります」(羽深氏)
一方で、利用に際して留意すべき点についての解説も行われている。中国の法律に基づくイデオロギー的なバイアス(チャイナバイアス)がモデルの出力に影響を与える可能性が指摘された。さらに、データが中国国内のサーバーで処理される製品版サービスを利用する際の情報管理上のリスクも存在するというのだ。
企業が自社の業務にAIを導入する際、特定の国のモデルのみに依存する体制は見直しを迫られている。今後は、地政学的な動向を踏まえた複数モデルの分散利用が視野に入ってくる。

AIの誤りを見抜くには?企業法務における人材育成の課題
AIが事実と異なる出力を含む文章を生成する状況において、出力された内容の誤りを見抜く能力の育成が法務部門における課題となっている。
従来の業務プロセスで手作業による契約書のレビューを経験してきた人材は、出力結果の不自然な点に気づくことができる。しかし、業務の初期段階からAIツールを利用する世代に対して、どのようにチェック能力を身につけさせるかが議論された。
羽深氏は人材育成の重要性について、次のように指摘する。
「いくらAIによる自動化が進んでいっても、最後の最後に細部に気づける人材というのは育てなければいけません」(羽深氏)
企業内の人材育成においても、明確な最適解は確立されていない。契約書のレビューなどの基礎業務をAIに頼らずに一定量経験させる手法や、AIが生成した不完全な文書の修正点を見つけさせる手法など、各社が研修プログラムを模索している段階だという。
「どうすれば細部に気づけるようになるのか。NDAの1,000本ノックをやるのが正解なのか、あるいは細部だけを少し変えた問題を作って出すのか。いろいろなアプローチはあるのだと思います」(羽深氏)
羽深氏は、米国の大学における法学教育のアプローチが分かれている現状を紹介した。特定の大学ではAIの使用を全面的に禁止する一方、別の大学ではテクノロジーを積極的に活用する教育プログラムを推奨しているという。
AIによる自動化が進展する環境下であっても、最終的な出力結果の法的リスクに気づける人材は不可欠だ。その育成手法の確立が、継続的な課題として浮き彫りとなった。



