AI時代の破壊的イノベーションでは覇者の顔ぶれが大きく変わる
AIは「社会人文的あるいは社会科学的な知見と、理数系・技術系の知見とがオーバーラップするテーマ」である。法律家でかつMBAホルダーという、本シンポジウムで唯一「文系の人間」として登壇した冨山氏は、東大のTLO(技術移転機関)の設立に関わり、オムロンの社外取締役を務めるなど、正にそのふたつがクロスする領域での経験が豊富だ。そのような立場から、AIによる社会変革について社会科学的な観点から論じた。
ビジネスの世界で起きているイノベーションが「破壊的(ディスラプティブ)」なものであるかどうかを理解する一番簡単な方法は、プレイヤーの顔ぶれがどうなるかということです。破壊的なイノベーションは、覇者の顔ぶれをガラッと変えてしまうのです。
デジタル革命の流れにおける破壊的イノベーションの第1期は1980年頃からの、コンピューター産業によるダウンサイジングと水平分業により起きた。このとき、永遠に市場の支配を続けるかと思われていたのはIBMだ。だが、この第1期の覇者になるのは、最初はIBMの下請けに過ぎなかったマイクロソフトとインテルだ。これが、「プレイヤーの顔ぶれが変わる」ということだ。
第2期は、90年頃からのエレクトロニクス産業におけるインターネット・モバイル革命によって起きた。冨山氏は当時、デジタルツーカーグループ(携帯電話事業者。後にソフトバンクとKDDIに事業譲渡)という、正に渦中にあった企業で働いており、携帯電話の普及を確信していたという。そして「これからは通信機器や交換器がバンバン売れる」と、アメリカならルーセント・テクノロジーやモトローラ、日本であれば電電ファミリーと呼ばれていた通信系の会社の企業価値が10倍や100倍になると予想したそうだが、実際に大きく成長したのはアップルやグーグルといった全く異なる顔ぶれの企業だった。
AIやIoTが引き起こす破壊的なイノベーションは全産業を覆い尽くすだろうと言われている。それゆえ、冨山氏はこれまで変化と無縁だった企業にも注意をうながす。
本当に破壊的なイノベーションが起きるとすると、今まで影響を受けなかった産業分野に属している企業も、大変革にさらされる可能性のある時代になってきたということです。ひょっとすると全然顔ぶれが変わってしまうかもしれません。