AIに奪われない仕事は“ネットワーキング型”の仕事
Alex “Sandy” Pentland(アレックス”サンディー”ペントランド)教授は、フォーブス誌が選ぶ「世界で最も有力な7人のデータサイエンティスト」にも選ばれた著名な科学者であり、AT&T、Google、日産等のアドバイザーを勤めるなど、ビジネス界にも影響のある人物である。
この日ペントランド教授がテーマに掲げたのは「ネットワーク・インテリジェンス(Networked Intelligence)」。これは教授のオリジナルな概念で、人間の社会的ネットワークを用いた意思決定能力のことを指す。
ペントランド教授によれば、昨今の「AIが人間の仕事を奪ってしまう」という言説は大げさで、過度に人々の恐怖を煽っているという。なぜなら人間ができることに比べて、AIの能力は限られているからだ。
現在のAIと機械学習は、ものごとの相関関係、現象の単純化、熟練者の特定能力の模倣がベースになっている。そのため、学習のための大量データが利用可能で、変化が少なく安定した状況の下でしかパフォーマンスを発揮できない。結果として、前提条件が頻繁に変わったり、まれに大きな例外が発生したりする金融市場のようなものは、AIの苦手とするところだ。だから、いまだにAIよりも人が運用するヘッジファンドの方が優位なのである。
時代によって雇用状況がどう変化してきたかをみても、職場にコンピューターが導入された80年代以降、同じ作業の繰り返しを主とした仕事は減少しているものの、ホワイトカラーでもブルーカラーでも非ルーティン業務は増加している。ルーティンでない仕事とはどういうものか、それをペンドランド教授は「ネットワーキング型の仕事」と呼び、それこそが人間が得意でAIにはできないことだと語る。
IT化が進み、初期段階のAIもすでに長期間使われているにも関わらず、非ルーティン業務の雇用が増えているのはなぜか? それは、非ルーティン業務が「人をつなぐ仕事」だからです。起業家的な精神で「この人のニーズとこの人の能力を引き合わせればうまくいくな」と考えるような、クリエイティブな仕事は、逆に増えているのです。