発表によると、Watsonのような、従来型コンピューターで現在稼働するテクノロジーは、膨大な量の既存のデータに埋もれているパターンや洞察の発見に役立つ。一方、量子コンピューターは、データが存在しないためにパターンが見えなかったり、解を得るために検討すべき可能性が桁外れに多いために従来型コンピューターで処理しきれないような重要な問題に対するソリューションを提供するという。
IBMは次のような発表も行った。
・IBM Quantum Experienceの新しいAPI
このAPIにより、開発者やプログラマは量子物理学の深い知識がなくても、5つの量子ビットによるクラウド・ベースの量子コンピューターと従来型コンピューターの間のインターフェースを構築することができるようになる。
・IBM Quantum Experienceのシミュレーターのアップグレード版
最大20量子ビットで構成される回路をモデル化できる。IBMは2017年上半期に、IBM Quantum Experienceの完全なSDK(ソフトウェア開発キット)のリリースを計画しており、ユーザーが簡単な量子アプリケーションやソフトウェア・プログラムを作成できるようにする。
■IBMクラウドを通じてIBMの量子プロセッサーにアクセス可能に
IBM Quantum Experienceを利用すると、誰でもIBMクラウドを通じてIBMの量子プロセッサーにアクセスし、アルゴリズムや実験を実行したり、個々の量子ビットを操作したり、量子コンピューティングにより実現可能性のあるものごとに関し、チュートリアルやシミュレーションを検討することができるようになるという。
IBMは、「IBM Qシステム」を量子コンピューティングの適用分野を拡大する目的で構築した。主要な指標は、「量子体積」で表される量子コンピューターの処理能力になる。これには量子ビットの数、量子演算の品質、量子ビットの接続性、並列処理などが含まれる。
量子体積を増強させるための最初のステップとして、IBMは商用の最大50量子ビットの「IBM Qシステム」を今後数年間で構築し、従来型システムを超える能力を実証することを目指しているという。また主要なパートナーと協力し、量子コンピューティングによるシステムの高速化を活かせるアプリケーションの開発を計画している。
■量子コンピューティングの将来の応用
「IBM Qシステム」は、従来型コンピューティング・システムで対処するにはあまりにも複雑で、指数関数的に拡大するような問題に取り組むことができるように設計される。最初のかつ最も有望な量子コンピューティングの応用は、化学の分野で起こるとしている。
カフェインのような単純な分子の場合であっても、分子の量子状態数は考えられないほど膨大となり得る。あまりにも膨大で、科学者がこれまでに構築した従来のコンピューティング・システム全てを使っても、この問題に対処できなかった。
IBMの研究員は、化学の問題に関するシミュレーションを量子プロセッサー上で効率的に行う技術を開発してきており、さまざまな分子における実証実験が進行中だという。将来的にはより複雑な分子構造に対応し、従来型コンピューターよりも高い精度で化学的性質を予測することを目標としている。
量子コンピューティングの将来の応用例を次のようにあげている。
- 新しい薬や材料の発見:新薬や新しい材料の発見につながる分子または化学相互作用の複雑性を解き明かす。
- サプライ・チェーンや物流:繁忙期における配達業務の最適化など、非常に効率的な物流やサプライ・チェーンを実現するグローバル・システムにまたがる最適パスの発見。
- 金融サービス:金融データをモデル化する新しい方法の発見と、より良い投資を実現する主要なグローバル・リスクの特定。
- 人工知能:画像や動画のようにデータ・セットが大きすぎる場合、機械学習などの人工知能の機能を強化し対応。
- クラウド・セキュリティー:プライベート・データの安全性を高めるために量子物理学の法則を活用し、より安全なクラウド・コンピューティングを実現。
実用的な量子コンピューターに向けたIBMのロードマップは、システムのすべての要素を進歩させていくための総合的なアプローチに基づいているという。IBMは、超伝導量子ビット、複雑な高性能システムのインテグレーション、および半導体業界の拡張可能なナノ加工プロセスに関する専門性を活用することで、量子力学的能力の発展に貢献するとしている。