「リーダーの気づかい」が、幸福度の向上と生産性の向上を同時に実現させる理由
最後にサザーランド氏は、幸福度と生産性の関係について述べた。以前に氏が仕事をしたストックホルムの企業では、「ほとんどの財務指標は過去の損失を見るのみといったもので、何が起きるのかを教えてはくれない。幸福度の指標が、業績を予測する最も良い指標だ」とみなされていたのだという。
この考え方を支持するのがハーバード大学の研究で、幸福度が高ければ生産性が高まるという結果が出ている。サザーランド氏の経験でも、あるベンチャーキャピタルグループですべての職種にスクラムを導入し、3ヶ月間スプリントを行ったところ、最も生産性が高いのは業務時間が週に40時間未満のチームだということがわかった。残業の多いチームは分割して成績の良いチームに入れたところ、最終的には全てのチームが3倍のパフォーマンスを出すようになったという。残業を減らせば家族と過ごす時間も増えて幸福度が向上するし、そのうえ、生産性も高まることがわかったのだ。
氏はまた、モチベーションの要因として、お金や権力、ステータスではなく目的、熟練度、自律といった内発的な要因の重要性も指摘した。
こうした事実を活かし、スクラムでは各スプリントの終盤における振り返りミーティングでアンケートをとる。「自分の仕事についてどう感じたか」、「チームについてどう感じたか」、「会社についてどう感じたか」ということに加え、重要なのは、「どうすればもっと幸福になるか」を聞くことだという。そして、チームが出した答えを「改善事項」として、次回のスプリントのバックログに入れるのだ。
サザーランド氏のチームでは、各スプリントで幸福度について聞くようになった2011年以来、継続的にパフォーマンスが向上し続けているという。幸福度の向上と生産性の向上が好循環を生み出すのだ。
もし皆さんが会社のリーダーであれば、生産性を上げるためにも社員に幸福になってもらわなければいけません。それが最もやるべきことでしょう。社員に、自分の仕事について、会社について、あなたたちリーダーについて、どう感じているか問いかけ、耳を傾けてください。(ジェフ・サザーランド氏)
多大なコストをかけた施策が必要というわけではなく、会社が社員のことを気にかけているという態度を示すだけで社員の幸福度が上がったという事例もある。サザーランド氏は、「あなたたち経営者が社員のことを気にかけている、そして支援をしているということを、社員自身に感じてもらうようにしなければなりません。そうすれば社員の方たちは応えてくれるでしょう」と講演の最後に語りかけた。
【編集部より】「アジャイル」や「スクラム」という言葉の後には、「開発」という言葉が続くことが多く、チームで行うソフトウェア開発の手法だと認識している方が多いと思われる。私自身も同様にスクラムを認識していた。しかし、なんらかのプロダクトが事業の柱になる「ものづくり企業」にとって、スクラムという手法はチームでの事業開発アプローチと言えるであろう。また、「働き方変革」が急務となっている職場環境において、限られた業務時間で生産性向上を実現しなければいけない多くのビジネスパーソンにとっては、チームでどのように仕事を進めていくか、という「生産性向上のための管理手法」ともいえる。組織的に事業開発に取り組むプロジェクト管理手法、働き方変革手法という認識で、スクラムを捉えなおしてみてはいかがだろうか。