「透明性」がイノベーションを推進する、その具体的な方法とは?
自分たちの方法論をなぜ「スクラム」と名付けたのか。氏は、当時一橋大学の野中郁次郎氏と竹内弘高氏が発表した、開発のフェーズや役割がオーバーラップしながら進んでいく「スクラムアプローチ」を提唱した論文を読み、そこに書かれているトヨタやホンダのようなチームを作りたいと考えたのだと明かした。
私達の方法をスクラムと呼ぶと決めたこと、それは重要な意思決定でした。リーンの長い歴史と、その中で知識を創造する作業、そしてイノベーションのモデル――、これらのことをすべて、我々がやっていることに含めようとしたわけです。つまり、スクラムには、野中先生の知識創造理論が入っています。スクラムのモデルはイノベーションを推進できるものなのです。(ジェフ・サザーランド氏)
サザーランド氏は、スクラムの2つ目の重要な側面である「透明性」について、知識創造の鍵となるものだと語る。組織横断的なチームで、全員が互いに暗黙知をシェアして伝達可能な形式知にすることで、プロダクトの生産に活かすことができる。そのためには、全員が何の業務をやっているかを互いに理解し、助け合う必要がある。また、リーダーはプロセスを可視化し、うまくいっていることとそうでないものを見極めて調整し、知識を生み出せるような「場」を作る、ファシリテーターとしての役割が求められる。
透明性、すなわち「見える化」を推進するものとして、サザーランド氏は「バーンダウンチャート」の利用を提唱している。ウォーターフォール型のプロジェクトでは予定と実績の管理にガントチャートを使うが、先に述べたように、この方式は遅れが生じるとそれを解消するのが難しい。バーンダウンチャートは、縦軸が残りの作業量、横軸が時間を表すグラフである。通常、時間の経過とともに残りの作業量は減っていくので、右肩下がりのグラフが描かれる。
サザーランド氏は、かつて銀行のシステム開発のチームを指導した際、すべてのタスクをボード上に貼り出して可視化し、優先順位を付け、バーンダウンチャートで管理することにより、遅れや残業が常態化していた開発チームが6ヶ月も経たずに最も生産性の高いチームになったという経験を振り返った。
仕事を可視化すること、つまりプロジェクトにバーンダウンチャートを導入し、見える化を行うことが鍵になります。
同時に、小さなチーム内でお互いに密な連携を図ることも重要です。10人、あるいはもっと大きいチームが、大企業にはたくさんあるでしょう。そうであれば、今日からそれらのチームをまず分割すること、それが一番良いと思います。(ジェフ・サザーランド氏)