自動車業界に見るドイツのマイスターと日本の匠のブランディングアプローチの差異

第三回

企業のビジネス価値を創造する「匠メソッド(匠Method)」を開発し、その方法論をさらに発展させ、企業のブランディングまでをつなぐデザイン手法(ArchBRANDING)を、新たにリリースする萩本順三氏の連載。第三回は、ドイツのBMWなどの自動車産業からデザインの価値を考察します。

[公開日]

[著] 萩本 順三

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ドイツ車への衝撃から「デザインの価値」を知る

 私が2008年頃に目指した自社の企業創りや手法創りにはドイツの自動車産業を参考にしてきました。なぜかというと自動車が生活必需品となっていく過程で蓄積されてきた自動車産業の知見にはデザイン、エンジニアリング、テクノロジー、そして人間工学といったすべてが融合された中でブランドが育まれてきているからです。

 私はドイツのクルマに初めて乗った時の衝撃は忘れません。
それは40歳の頃でした。それまではクルマのことなど無用な贅沢品としか思っていませんでしたので故郷の親のクルマを運転するだけでした。40歳になって初めて購入した時は安全なクルマと考えてBMWを買ったのですが、完全に私のクルマの概念を変えました。単なる移動のための道具と思っていたのですが、走るのがとっても楽しいのです。最初は、その魅力はどこから来るのか不思議でしたが、エンジンとシャーシ、そしてハンドリング、ブレーキなどのトータルな融合の中で人が感じる心地良さを演出していることが分かってきました。そして、それを見事に広告や書籍記事により、そこが良いのだよと私の心に囁くのです。つまりはエンジニアリングとデザインが融合され、そこに乗り味を試すマイスターが最終的な運転して評価を行うことで価値を感じさせてくれているように感じました。
また、クルマをユーザに届ける前に、ブランディングによってそれら私が感じた 価値が提供されているように思いました。
 これによって、私の意識の中に「このクルマは走ると楽しい、エンジンがとても気持ちいいんだよ」とプロモーション展開等によってすり込まれるのです。
それがブランディングによる私の意識の変化となっているのだと思います。

クルマのブランド創り

宣言型ブランディング:アバンギャルドを起点に

 ブランディングは、ある意味宣言型で活動するという風に考えることもできます。つまりは価値をデザインしてそれを目標としたクルマ作りを行うのです。

 クルマ作りの大きな周期ではコンセプトカーがこのことの典型例となります。

 コンセプトカーにより、私も含む多くの人は未来のクルマとして描かれた魅力に引きつけられて、それに近いカタチで発売されるクルマを購入したくなるのです。これはコンセプトカーが出た時点で、ユーザの価値観を手元(メーカー)にたぐり寄せるような行為のようにも思えます。そして私もまんまと購入してしまう訳です。まあ、これも自分の心を対象にした実験だと思っています。
コンセプトは革新的デザインを市場に打ち出し問いかけるだけではなく、市場の価値観を自分たちに近い所にたぐり寄せる、そんな部分もあるものです。

 このような革新的試みのことをフランス語でAvant-garde(アバンギャルド)といいますが、アバンギャルドとしてのコンセプトカーを起点に次の未来のビジネス創りが進められているわけです。

 これと同じこととして、ファッションショーの衣服もそうです。まさかあんなものを街中では着ることは一般人にはなかなかできない。しかし、それに近い服が発売されると買いたくなるのでしょう。
これは、ファッションショーによってユーザの未来に向けた価値観がファッションを創造した当事者(メーカーやデザイナー)の方にたぐり寄せられていくために、いつの間にかそれが素敵に思えてしまうのです。

 コンセプトカーが完結するのは、メーカーにより異なると思いますが3年~7年でしょう。その間にまんまとクルマを2台買い替える人もいるわけです。

クルマ作りのライフサイクル

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