前回の価値デザインモデルは、企業、製品、部門などの価値をストーリーとして表現するものでした。ビジネスやサービスを立ち上げる時には、上記視点に加えて、もう一つ重要な視点があります。それはビジネスステークホルダーが感じる価値を、シチュエーションとアイデア(手段)をセットにした魅力的な文章を通じて描くことで、企画当初よりビジネス価値を増幅させておくことです。今回は、この視点について価値分析モデルを通して説明します。
ビジネスステークホルダーの価値をデザインし、バランスを取る方法
私は匠Methodに価値を導入する際に、もうひとつの価値のモデルを検討しました。それは、ビジネスに関係するステークホルダーの価値のデザインを行う方法を探すことでした。
ビジネスを企画する際に、そのビジネスに関係するステークホルダーが感じる価値が少なければ、そのステークホルダーの参加は得られません。そうなると、どんなに素晴らしいアイデアがあったとしても、一緒にビジネスを成長させることができないのです。
また、最終的なユーザーやコンシューマーにとっての価値が何かということも忘れがちです。
例えば、某ゲームメーカーの開発部門の悩みとして、ゲーム企画部門が喜ぶゲーム創りに没頭するあまり、ゲームの利用者(コンシューマー)の顔が見えなくなったという悩みを相談されたこともあります。
また、某サービス開発会社では、サービス提供企業の価値につながることばかりを考えて、その後ろにいる実際のユーザ(コンシューマー)の価値を考えていないために、サービス提供企業からしてみると迫力を感じず、対等のパートナーと見なされないということも課題としてありました。
サービス提供企業の価値を考えるのではなく、最終ユーザの価値を考え、そこからサービス提供企業の価値を導き出すことができなければ真のビジネスの成功はありません。また、ユーザ企業にとっての真のパートナー企業にはなりえません。これは、最終ユーザだけではありません。ビジネスに関係するステークホルダーの誰かが価値を実感できないという部分があれば、それはビジネスリスクと考えるべきなのです。そこで価値が感じられないステークホルダーの価値を参加者全員で考えるのです。これがステークホルダーの価値のバランスを取るということなのです。
ビジネスを立ち上げる最初の段階に、そのことが考えられていない場合が多いのです。そのような場合、ビジネスは失敗したり、企画の後半段階で問題が発覚して手戻りが発生し、時間ばかりがかかってしまいます。
そこで、できるだけ多くの企業で、共通のモデルとしてこのことをしっかりと表現できるシンプルなモデルが必要だと考えたのです。
世の中には、最終ユーザの価値をデザインする考え方やモデルはありますが、このようなモデルについては存在しないと思ったのです。
このようなことから、最終ユーザの価値を基軸に、その間に関係するステークホルダーの価値を描けるようなモデルがあったらいいなと思いました。ビジネスを成功させるには、ビジネスに関係するステークホルダーの価値をデザインし、そのバランスを考慮すべきだと考えたのです。