後ろではなく、前を向く
クリステンセン氏の『イノベーションのジレンマ』を読んだとき、筆者はまさに破壊が繰り返されていたハードディスク業界の中にいた。その後ハードディスク業界自身の破壊が進み、多くのアプリケーションではフラッシュメモリーに取って代わられた。実際、破壊的イノベーションが自分や仲間の身に降りかかったのだ。続編の『イノベーションへの解』では、顧客に商品が選ばれる理由についての理論、つまりジョブ理論を披露した。ジョブ理論に触れた当時は、「なるほど。だから、容量や価格で優れていたハードディスクがフラッシュメモリーに破壊されたのか」と理解した。ある意味、理解したにすぎないと言えるだろう。というのも、他の業界で起きていた変化は気づくことができなかったからだ。ジョブ理論を、過去を分析するために使うことはできていたが、未来を創るために使うことはできていなかった。
その後、いくつかの事業を立ち上げようとすると「顧客のジョブ」が立ちはだかった。こちらがやりたいことを、お客さんは良いと思ってくれないのだ。優れた解決策は顧客が選ぶものだ、ということは頭でわかっていても、実行に移すのは難しい。作り手から見て良かれと思った解決策が拒絶されるという経験は、改めてジョブ理論に向き合う機会をくれた。向き合うことで、風穴が空いたプロジェクトはあった。また、顧客のジョブがどうしてもわからないこともあった。