顧客を変え、既存のビジネスを一掃しつつある「新しいビジネス」とは
20世紀から120年続いた『モノを売ることが中心の時代』は終わろうとしています。
ツォ氏は講演の冒頭、こう話し出した。これまでずっと考えられてきたビジネス上のテクニックは、特定の製品を作り、売ることを第一に考えるものだ。大ヒットする製品を作り、最も多くの製品を売った企業が、業界トップになる。この発想でビジネスは120年進化してきたのだ。しかしそういった時代はもうすぐ終わる、とツォ氏は主張するのである。
自分の消費者としての振る舞いを考えれば、それは実感できるはずだ。消費者として自分が期待するものは、10年前と今では同じだろうか。Twitter、Facebook、Amazon等の誕生によって消費者は変わった。以前よりももっと、「本質的な成果(アウトカム)」を求めているはずだ。「商品が壊れるのではないか」「使い方がわかるだろうか」と心配することよりも、それを使ってより早く、より簡単に、前よりもうまく仕事や家事、娯楽ができることを求めているはずである。
こういった消費者の変化は、フォーチュン500の企業の顔ぶれを見てもわかる。この15年で52%の企業が消え、Amazon、Google、Facebook、Apple、salesforce.comなどといった新しい企業が並ぶようになった。15年前と変わらずフォーチュン500に残っている、ディズニーや、キャタピラー、ゼロックスと、新しく登場した企業の共通点は「製品」中心ではなく、「顧客」中心のビジネスを展開しているということだ。そうでない場合、“ウバられて”しまうのである(アメリカでは、Uberが業界に与えた影響のように、既存のビジネスが全く違った発想を持つ新しいビジネスに一掃されてしまうことをbe Uberedと表現している)。
Netflixは、「顧客」中心のビジネスを展開し、サブスクリプション方式で動画コンテンツの配信を行っている。今や1億3000万人の顧客がおり、その顧客は毎年100ドルほどNetflixに支払っている。Netflixはその巨額の収入を使って、新しいコンテンツを制作・買取して顧客体験をさらに向上させる。その制作費は、アメリカのテレビ放送HBOやワーナー・ブラザーズが「Netflixが制作費をかけすぎるから、公平な競争ができない」と不満を漏らすほどだ。しかも、Netflixは顧客中心の姿勢によって解約率も低いため、ビジネスは安定している。
こういったサブスクリプション・ビジネスは、ネットを利用したコンテンツ産業だけでなく、さまざまな業界で広がっている。しかし、今日の消費者は気難しい。本質的な成果を早く簡単に手に入れたがる。自分にぴったりの、自分好みのものであってほしい。以前に使っていたものよりも賢く、自分の癖を把握して、そして「自分が意識するよりも前にふさわしいものを提供してほしい」と思っている。消費者としての自分を考えれば、納得いくはずだ。では、そういった消費者の気持ちを、企業はどうやって汲みとっているのだろうか。