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『繁栄のパラドクス 絶望を希望に変えるイノベーションの経済学 』第2章 全文公開【後編】

クレイトン・M クリステンセン 著 / パーパーコリンズ・ジャパン 刊

[公開日]

[著] クレイトン・M・クリステンセン エフォサ・オジョモ カレン・ディロン [訳] 依田 光江 [協力] ハーパーコリンズ・ジャパン

[タグ] 破壊的イノベーション 事業開発 企業戦略 イノベーションのジレンマ 市場創造型イノベーション

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「利益」と「雇用」と「文化的変容」

 どのタイプのイノベーションも経済に重要な役割を果たすが、市場創造型イノベーションがとくに強大な力をもつのは、不便や苦痛の低減に役立つ解決策を大勢の人に届けられるからである。市場は、売られるプロダクトの価値と量の掛け合わせで決まるので、無消費をターゲットとする市場は投資家やイノベーター、社会にとって莫大な利益を生む可能性をもつ。新市場が成功すると、プロダクト/サービスが何であれ、そこには3つの成果物が伴う。「利益」と「雇用」、そして3つのなかで最も把握しにくいがおそらく最も強い影響力をもつ「文化的変容」である。これらが合わさって将来の成長の堅固な土台となる。

 市場とは創造されたあと、存続していくものであり、「利益」を生むこと、あるいは少なくとも利益を生むと見込まれることが不可欠である。利益は将来の成長の燃料となる。

 「雇用」は、市場のプロダクト/サービスを製造し、運搬し、販売し、改良して、新規顧客に解決策を届けるために生まれる。雇用の創出は社会にとって単純な金銭的価値以上の意味がある。職は人に尊厳を与え、自尊感情を育む。自分と家族が自立して生活できるようになる。さまざまな調査からも、職をもつ者はそうでない者より、犯罪にかかわる時間と犯罪への心理的傾倒が少ないことが明らかになっている。

 市場のおそらく最も重要な成果物は、新市場を母体として増強されていく「文化的変容」だ。市場創造型イノベーションは、社会の大勢の人が入手できるようにプロダクト/サービスを大衆化するだけでなく、新市場の成功がもたらす恩恵も大衆化する。こうした恩恵にはたんなる雇用のほか、通常は投資家と雇用者のものだった「所有の機会」もある。地域の大勢の住民が所有の機会によって、従来の問題(自分と家族を養い、社会での地位と尊厳を得るにはどうすればいいか)を生産的に、つまり、新市場に投資家や生産者、消費者として参加することで解決していけると理解したとき、彼らの社会への見方は変わる。これは、新市場によって社会の文化が変わる道程の一部にすぎないが、繁栄を目指す国にとってすべての面で大きなちがいをもたらすだろう。

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