過去集計から未来予測(アサンプション)への転換
Biz/Zine編集部・栗原茂(以下、栗原):本日は著書『スキルベース組織の教科書』(日本能率協会マネジメントセンター)を起点に、AI時代の組織とコーポレート機能の変容について伺います。生成AIの台頭で、人事や経営企画の役割はどう変化するのでしょうか。
鵜澤慎一郎氏(以下、鵜澤):長期的に見れば、財務、マーケティング、人事、経営企画といったコーポレートファンクション(管理部門)の人員減少は不可避です。
これまで仕事の中心だったPDCAサイクルのうち、AIは評価や改善だけでなく、実行や計画策定までも高精度に行えるようになっています。自律型AIが普及すれば、PDCA全体のスピードと効率でAIが人間を凌駕する時代は遠くありません。そのとき、人間に残る業務領域は、PDCAサイクルの「前工程(フェーズ0)」と「後工程」の2つに集約されると考えます。
EYのAsia-Eastエリアとジャパンリージョンのピープル・コンサルティングリーダーを務める。事業会社およびコンサルティング会社で25年以上の人事変革経験を持ち、専門領域は人事戦略策定、HRトランスフォーメーション、チェンジマネジメント、デジタル人事。グローバルトップコンサルティングファームのHR Transformation 事業責任者やアジアパシフィック7カ国のHRコンサルティング推進責任者経験を経て、2017年4月より現職。主な共著に『HRDXの教科書 - デジタル時代の人事戦略』(日本能率協会マネジメントセンター)、『人的資本経営と情報開示 先進事例と実践』(清文社)、監修に『スキルベース組織の教科書』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
栗原:「前工程(フェーズ0)」とは、具体的にどのような役割ですか。
鵜澤:PDCAに入る前の「0から1を生み出す」段階です。直感的にビジネスの種を見つける、高い志で構想する、データに表れない現場の違和感を感じ取るといった力です。こうした構想力や感性は、依然として人間に一日の長があります。
コーポレート機能におけるフェーズ0とは「予測する力」です。これまでは起きた事象の処理やレポーティングに長けていましたが、これからは「半年後の従業員数や人件費、エンゲージメントの推移」など未来を予見し、事業運営の前提(アサンプション)を置く力が求められます。過去の集計ではなく、未来予測こそが価値を持つのです。
業務プロセスは「予測」と「対話」へ二極化する
栗原:では、もう一つの「後工程」では人間に何が求められるのでしょうか。
鵜澤:端的に言えば「意思決定力」と、それに伴う「対人的な問題解決力」です。AIは膨大なデータから論理的に正しい選択肢を無限に出せますが、責任は取れません。最終的に「どの案を採用するか」という経営判断は人間が行います。無数の選択肢から「どれが我々のパーパスに合致するか」を決断し、ビジネス側の責任者に「この選択こそが問題を解決する」と背中を押す支援が問われます。
栗原:単なるデータ提示ではなく、相手を動かすコミュニケーションや交渉力が重要になるのですね。
鵜澤:その通りです。最適解の導出はAIが得意ですが、未来のビジョンを語り、信頼関係に基づいて方針を打ち出す動きは代替できません。
人事異動でも、かつてのような辞令一枚ではなく、今は「なぜ必要なのか」「キャリアにどうプラスか」を上司が丁寧に説明し、納得を得る必要があります。論理的正しさだけでなく、人間ならではの親身な対話や「熱量」が意思決定を左右します。価値の源泉が業務プロセスの上流(予測・構想)と下流(意思決定・対話)へシフトするイメージです。
