Agentic AIは「交渉」し、「経済圏」を創る
小宮昌人氏(以下、小宮):Agentic AIの未来について伺います。まず、NECが提唱する「X-as-an-Agent」のコンセプトをお聞かせください。
森永聡氏(以下、森永):「XaaS(X as a Service)」は一般的になりましたが、これからは「X-as-an-Agent」の世界が来ると考えます。これはNECのビジョンで、新たな経済圏が生まれるとの予測です。
少々前までの「Agentic AI」は、われわれが「フェーズ1」と呼ぶ「ツール」段階です。AIやデータ分析がエージェントの体裁を取り、専門家でなくてもAIを部下や代理人のように使えます。
現在は「フェーズ2」に来ています。これは、一企業内で複数のエージェントが協調して動作する世界です。「生産管理エージェント」が「需要予測エージェント」などと自動で情報をやり取りし、連携してタスクを実行します。これはマルチエージェントシステムと呼ばれ、これに対応できないITベンダーは淘汰(とうた)されるでしょう。この段階は「パートナー」としてのAgentic AIです。
小宮:AIの進化は「ツール」から「パートナー」、そして「経済主体」へと、NECでは予測されていますね。フェーズ2が「パートナー」なら、次は何ですか。
森永:われわれが本命と捉えるのが「フェーズ3」です。別々の企業のエージェント同士が、企業の枠を超えてコミュニケーションし、仕事を果たす世界です。
典型例は「物の売買」で、A社の「販売エージェント」とB社の「購買エージェント」が、納期、数量、価格等を自律的に合意します。これがフェーズ3です。
小宮:それが「経済主体」としてのAI、「X-as-an-Agent経済圏」ですね。
森永:われわれはこの経済圏を「エージェントの、エージェントによる、エージェントのためのビジネス」が回るエコシステムと定義しています。
「エージェントのビジネス」はエージェント自体の売買・派遣、「エージェントによるビジネス」はエージェントによる経済活動、「エージェントのためのビジネス」はエージェント向け実行基盤や保証サービスを指します。
Gartnerは、Agentic AIによる経済活動が2030年までに数兆ドル規模になると予測[1]しており、われわれも同様の見通しです。
博士(工学)。1994年NEC入社。金融庁出向(銀行のリスク規制制度設計担当)などを経て、機械学習・データマイニング研究チームのリーダーとして従事。現在は、Agentic AIが経済活動を行う「X-as-an-Agent 経済圏」を提唱し、その中核技術としての「自動交渉AI」の研究開発と社会実装をリード。「自律調整SCMコンソーシアム」理事長、産業技術総合研究所 NEC-産総研AI連携研究室 副連携研究室長、神戸大学客員教授、日本人工知能学会理事なども務める。
[1]Don Scheibenreif, Mark Raskino 『When Machines Become Customers: Ready or not, AI enabled non-human customers are coming to your business. How you adapt will make or break your future.』(2023,Gartner)
