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次世代の経営者に向けた「新・リベラルアーツ論」──単なる知識はAIに任せ、見極め/問う力を養うには?

パネリスト:日本たばこ産業 岩井睦雄氏、タイミー 小川嶺氏、日本IBM 井上裕美氏

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 AIの急速な進化、労働市場の流動化、グローバルな地政学リスク。現代のビジネス環境は、まさに「予測不能」という言葉がふさわしい。このような時代において、社会インフラに変革をもたらす急成長企業や、巨大なグローバル企業を率いるリーダーたちに、今、改めて「リベラルアーツ(教養)」が求められている。専門特化と効率化が叫ばれる中で、なぜ一見「遠回り」に見える教養が、リーダーにとって不可欠な武器となるのか。2025年11月にフォースタートアップスが開催したカンファレンス「GRIC2025」から、本セッション「リベラルアーツとリーダーシップ」では、日本たばこ産業(JT)の岩井睦雄氏、タイミーの小川嶺氏、日本IBMの井上裕美氏という、世代も事業ドメインも異なる3名のリーダーが登壇。モデレーターの宮本恵理子氏が進行し、彼らが複雑な時代の変化をどう読み解き、事業のかじ取りを行っているのか、その思考の源泉が語られた。

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リーダーが経験した「必然性」。危機と挫折が教養を求めた

 セッションは、なぜ今リベラルアーツが重要なのかという「Why」から始まった。3名のリーダーは、キャリアにおける重大な局面や危機、挫折といった「必然性」によって、教養の重要性を痛感した経験を共有した。

危機下の意思決定を支えた軸、JT岩井氏が語る「教養の3段階」

岩井睦雄
日本たばこ産業株式会社 取締役会長 岩井睦雄氏
1983年 日本専売公社(現日本たばこ産業株式会社)入社。食品事業担当執行役員、取締役常務執行役員などを経て2011年JT International S.A. Executive Vice President就任。その後、専務執行役員、代表取締役副社長、取締役副会長を経て、2022年より現職。また、2021年株式会社TDK社外取締役(現任)、2024年公益社団法人経済同友会筆頭副代表幹事・代表理事(現任)などを歴任。

 40年以上にわたりJTの変革を体感・実践してきた岩井氏は、リーダーにとってのリベラルアーツを3つの段階で定義する。

 第1段階は、グローバルビジネスにおける雑談力などにも通じる「知識・情報」としての教養。第2段階は、物事の本質を見抜いたり、歴史から学んだりするための「思考・意思決定のツール」としての教養である。だが、岩井氏が最も重要視するのは第3段階、すなわち「Being(より良く生きる)」のための教養だ。

 「自分自身の生き方だけでなく、組織を率いる者は、従業員の人生や事業が社会に与える影響(光と影)も背負っている。その時、何が正しいのか、倫理的な決断を下すための軸が必要になる」と岩井氏は語る。

 その必然性を痛感したのが、2008年に発生した、100%子会社による中国産冷凍餃子への農薬混入事件だ。当時、食品事業の担当役員だった岩井氏は、事業責任者としてまさに危機の渦中にいた。

「本当に何を今決断し、何を話すべきか。そういうことを考えざるを得ませんでした。いざという時に『すみません、知りませんでした』では済まされない。そういう時に支えになったのが、私にとっては古典などの教養でした」(JT・岩井睦雄氏)

 また、JTの祖業であるたばこ事業についても、その「光と影」を見つめ、必需品ではないものがなぜ人間に求められるのか、それは「心の豊かさ」ではないか、といった哲学的な問いに向き合う上で、リベラルアーツが不可欠であったと振り返った。

タイミー小川氏が直面し、気付いた必然性

小川嶺
株式会社タイミー 代表取締役 小川嶺氏
2017年、20歳でアパレル関連事業の株式会社レコレを創業、翌年事業転換を決意。2018年8月に「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングするスポットワークサービス「タイミー」をローンチ。社会のニーズをとらえ早期にPMFを実現し、大きく成長を遂げる。2024年7月には創業7年・27歳3ヵ月にして、東証グロース市場へ最年少ユニコーン上場(独立の企業として)。

 一方、創業7年、27歳で「最年少ユニコーン上場」を果たしたタイミーの小川氏は、まったく異なる文脈から教養の必要性に直面した。「正直、スタートアップ初期はリベラルアーツの必然性はそこまで感じていなかった」と小川氏は率直に語る。

「創業期は『最年少上場するぞ』という分かりやすい夢で、優秀なメンバーが集まってくれた。ある意味、リベラルアーツがなくても組織はドライブしたのです」(タイミー・小川嶺氏)

 しかし、その潮目が変わったのが上場後だった。初期メンバーが次々と会社を去っていくという現実に直面する。

 「その時、人を繋ぎ止めるものは何かを考えた時に、やはり社会的意義(パーパス)に立ち返るしかなかった」と小川氏は言う。何のためにタイミーをやるのか。上場はゴールではない。その先のビジョンを語り、国や社会といったより大きなステークホルダーと対話していく必要性に迫られた。

「そのためにこそ教養が必要だと痛感した。もっと初期から自分がリベラルアーツを身につけていれば、もっと力強い組織を作れたのではないか、上場時に人が辞めることはなかったのではないか、と今は思っています」(タイミー・小川嶺氏)

 小川氏にとってのリベラルアーツは、成功の後に訪れた挫折を経て、組織を次のステージへ導くために獲得を迫られた「必然の武器」だったのである。

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「当たり前」を疑う力。リベラルアーツが拡張させるリーダーの引き出し

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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