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経理・税務AIは「導入」から「実装」フェーズへ 2026年の課題とAIマネージドサービス構想とは

PwC Japanグループ「Tax AIメディアセミナー」レポート

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 生成AIの登場から数年が経過し、企業におけるAI活用は「可能性の検証(PoC)」から「実務への本格実装」へとフェーズを移しつつある。特に、法規制の複雑化と人材不足が同時進行する経理・税務領域において、AIは単なる効率化ツールを超えた「持続可能な経営インフラ」としての役割を期待されている。2026年1月14日、PwC Japanグループは「税務・経理領域における生成AI活用戦略と実践事例」と題したメディアセミナーを開催した。本レポートでは、PwC税理士法人代表の高島淳氏、同パートナーの橋本純氏、ディレクターの角谷亮太氏の講演内容に基づき、日本企業が直面する「2026年の課題」と、それを乗り越えるための「AIマネージドサービス」構想、そして知的財産権の壁を越えた新たなAI開発の現場を詳報する。

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日本企業を襲う「人材不足」と「税務の複雑化」

「私がこの業界に入って30年になりますが、今まさにビジネスの変曲点(インフレクションポイント)に差し掛かっています」

 冒頭、PwC税理士法人 代表の高島淳氏は、強い危機感とともにこう切り出した。これまで税務・経理業務は、専門家を採用・育成し、チームでデリバリーするという労働集約型のモデルで成長を続けてきた。しかし、ここ数年でその前提は崩れ去りつつある。

 背景にあるのは、日本特有の構造的な課題だ。グローバル企業と比較して、日本企業は税務部門の専門人材が圧倒的に少ない。人口減少に伴う採用難に加え、育成しても流出してしまうリスク、さらには毎年のように複雑化する税制への対応コストが経営を圧迫している。

 高島氏は、昨今のクライアントからの依頼傾向について、「『税務人材を派遣してほしい』というニーズが急増している」と明かす。これは、テクノロジーによる効率化を渇望しながらも、過渡期におけるリソース不足に現場が悲鳴を上げている証左と言えるだろう。

 こうした状況下で、企業が目指すべきは「AIによる業務の再構築」である。しかし、各企業が個別にAIシステムを構築し、頻繁な税制改正に合わせてメンテナンスし続けることは、コスト対効果の面で現実的ではない。

 そこでPwCが提唱するのが、AIエージェントを業務プロセスに組み込み、一連の流れをSaaS(Software as a Service)として提供する「マネージドサービス」構想だ。

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資料提供:PwC Japanグループ/クリックすると拡大します

 「税務業務の上流から下流までAIエージェントを配置し、我々が伴走しながらSaaS的に機能を提供する。これにより、企業はシステムメンテナンスの呪縛から解放され、戦略的な業務にリソースを集中できるのです」と高島氏は強調する。

「Human-in-the-Loop」:AIは100点を目指さない

 続いて登壇したPwC税理士法人パートナーの橋本純氏は、AI実装の現場における「意識変革」の重要性を説いた。過去2年間のPoC(概念実証)を経て見えてきたのは、AIに対する過度な期待と現実的な解の乖離である。

「AIにすべてを任せて人がいなくなる、というのは誤解です。AIに100点は取れません。80~90点で充分です。残りの1~2割の例外処理や最終判断に人間が介在する『Human-in-the-Loop』こそが、正しいAI活用の姿です」(橋本氏)

 税務や経理の世界には、条文だけでは割り切れない「取引の背景」や「例外」が無数に存在する。これらすべてをAIに判断させるのではなく、定型的な9割の処理をAIに任せ、人間はより付加価値の高い「判断」や「戦略立案」にシフトする。この「逆三角形」の業務構造への転換こそが、DXの本質である。

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資料提供:PwC Japanグループ/クリックすると拡大します

 この考え方を具現化するのが、AIエージェントの活用だ。たとえば、請求書や領収書からのデータ抽出、転記、分類といった「作業」はAIの得意領域である。これらをAIに委譲することで、担当者は削減されるのではなく、新たに生まれた時間でマネジメントや高度な税務判断といった「人間が行うべき仕事」に従事できるようになる。

 橋本氏は、「AIを使って個人の能力を拡張し、今までできなかった業務をこなせるようにする。これこそが我々が目指す理想像です」と語り、AIを「人の代替」ではなく「人の拡張」と捉える視点の重要性を訴えた。

AIが変える経理・税務の現場:「申告書点検」の実践事例

 では、具体的に経理・税務の現場はどう変わるのか。PwCのAIエージェントのラピッドプロトタイピングを専業で担う開発組織「AI Factory」のメンバーも務める角谷亮太氏は、実際のユースケースとして「税務申告書チェック高度化」の事例を紹介した。

 従来、税務申告書のチェック作業は、膨大な根拠資料(PDFや計算書類)と申告書を突き合わせ、100項目以上のチェックリストを目視で確認するという過酷な業務だった。ここに導入されたのが、OCR(光学文字認識)と生成AIを組み合わせた「マルチモーダル」なAIエージェントだ。

「OCRで抽出した精緻なテキスト情報と、画像としてのレイアウト情報を合わせてAIに投入することで、人間が見るのと同じように『右上のグラフ』や『表の構造』を理解させることが可能になります」(角谷氏)

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 このシステムでは、AIがチェックリストに基づき全件を監査し、「判定結果」とその「根拠(自信度)」を出力する。人間は、AIが「NG」と判定したものや、自信度が低い項目を重点的に確認すれば済む。これにより、形骸化しがちなチェック業務の質を担保しつつ、工数を劇的に削減することが可能になるという。

 角谷氏は、成功の鍵は「ユースケースの選定」にあると指摘する。

「難易度が低く、かつ効果が大きい領域から着手し、成功体験を積み上げることが重要です」(角谷氏)

 支払調書の提出要否判定の事例では、過去の判定事例やマニュアルをAIに学習させることで、97〜98%という極めて高い精度を実現したケースもあるという。これらは、AIが実務レベルで十分に「使える」段階に来ていることを示している。

次のページ
「自前主義」からの脱却:AIマネージドサービスという選択肢

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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