本共同研究は、組織における中間管理職がプレイングマネジャー化するなかで、多様な従業員のマネジメントや変化の大きいビジネスへの対応をはじめとした組織内で生じるさまざまな問題を解決することを求められ、役割を十分に果たすのが難しくなっているという状況の解消を目的としている。そこで、中間管理職が組織マネジメントにおいて活用できる「対話の方法」を開発し、その活用により、中間管理職が組織やメンバーに対する捉え方を広げ、膠着した関係性を新たにし、より良い組織を構築していけるようになることを目指している。
対話とは、単なるコミュニケーションの手法ではなく、「新しい関係性を構築すること」を意味している。
本研究の背景として、現代の職場は、変化するビジネス環境や、多様化する従業員、働き方改革など、さまざまな要因が積み重なって複雑化し、問題を捉えることすら難しくなっていることを挙げている。今後のさらなる変化でますます組織人材マネジメントのあり方を変える必要が高まっていくと予測される。
そのなかでも、中間管理職がメンバーをマネジメントすることが特に難しくなってきているという。現在、中間管理職のうち7割強はプレイングマネジャーであり、そのうちの4割強はプレイング業務の割合が45%以上となっている。すなわち、多くの中間管理職が、業績・業務やメンバーのマネジメント業務に加えてプレイング業務も行わねばならない状況で、業務過多の傾向があるという。
そこでリクルートMSは、そういった中間管理職の抱える問題の解消を支援するため、臨床心理などで研究されてきたナラティヴ・アプローチや社会構成主義の概念を企業組織に応用する研究をしている埼玉大学大学院 宇田川准教授と、中間管理職の組織マネジメントにおける問題の捉え方を広げることのできる対話方法を開発するため、共同研究を開始した。
今回発表されたのは、共同研究の中間報告と今後の展望。その中での主要な取り組みは、新たな対話手法「2on2」を用いたプログラムの開発。現在、多くの組織では、プライバシーが守られた場で行われる自由で親密な対話手法「1on1」が面談等で取り入れられている。「1on1」は、2者間の了解に基づいて話が進んでいくため、特定の話題を深めていくのに有効な手法だが、参加者間の関係性が深まっていない場合には、本音での会話が難しく、クローズドな環境で行われる特性から、関係性の固定化や会話のパターン化を招くケースがあると指摘。その結果、頻繁に会話がなされているにも関わらず、組織の問題が慢性化するという状況が生じてしまうのだという。
現在開発を行っている「2on2」は、このような状況に適した対話の手法。「2on2」では、ピア(職場メンバー)や支援者も対話に加わることで、当事者同士の会話にフィードバックがかかるような環境を作り出すとしている。つまり、慢性的に生じている職場の困りごとをめぐって、その「当事者」が主体となって困りごとを「研究」するアプローチをとる。こういったアプローチをとることにより、多様な視点を出し合いながら捉え方を拡げ、困りごとが生じるメカニズムを知り、その事象とのより良い付き合い方を見出すことができるようになるのだという。
このように、「2on2」という対話方法は、従来の短期的な技術的問題解決型のアプローチとは異なり、ナラティヴ・アプローチの既存研究や方法をもとにしながら、企業内で慢性的に繰り返される問題の背後にある適応課題に向き合えるように開発された対話の方法。開発から現在まで、複数社での実施を経て、本手法を核とする対話プログラムの開発を進めているという。本対話方法は、今後、さまざまな組織で活用していただけるよう、2020年9月頃まで実用化の可能性を検討していく予定。研究成果は、論文にまとめ学会で発表することや、リクルートMSが提供する管理職のためのメンバーマネジメント支援サービス「INSIDES(インサイズ)」実施後に行うプログラムとして顧客に提供することを目指している。