本調査は、離職後と元在籍企業との関係性を明らかにし、双方にとってどのようなメリットを享受できるかを考察するために実施。なお、本調査でいう「元在籍企業」とは、現在より一つ前に在籍していた企業を指す。
調査結果
「アルムナイ経済圏」の規模
1:離職後、「元在籍企業」や「元同僚」と行った経済的取引の範囲を「アルムナイ経済圏」と定義すると、その規模は年間1兆1500億円に上ることが明らかとなった(図表1)。
「アルムナイ経済圏」はパーソル総合研究所による造語。離職者による元在籍企業・元同僚との取引範囲を意味し、その規模は、1:元在籍した企業と現在在籍中の企業との取引(B2B)、2:元在籍企業と離職者個人との取引(B2C)、3:元在籍企業で同僚だった者との取引(B2B並びにB2C)の合計値を意味する。
「アルムナイ経済圏」の市場規模推計値は、「1:年間の離職者数(パートタイム除く一般労働者)」から「2:非自発的な離職(事務所側の理由・定年など)」を除き、「3:離職者一人当たりの年間取引額」をかけて求めた。1と2は平成29年雇用動向調査結果、3はパーソル総合研究所調査より、業界割合調整済の数値を用いた。
2:「アルムナイ経済圏」のうち、「元同僚」との取引を除き、「元在籍企業」との取引に限定した「狭義のアルムナイ経済圏」の規模は、年間4,400億円となる(図表1)。
離職者による元在籍企業との取引範囲を意味し、その規模は、1:元在籍企業と現在在籍中の企業との取引(B2B)、2:元在籍企業と離職者個人との取引(B2C)の合計値を意味する。
購入者や評価者としての離職者
1:離職者が個人ユーザーとして、元在籍した企業の商品・サービスを1年のうちに利用・購買している割合は10.8%(図表2)。
2:離職者が元在籍企業の商品・サービスを勧めるかどうかを見ると、ポジティブな説明が12.5%、ネガティブな説明が13.2%と概ね拮抗する結果となった。元在籍企業への入社を人に勧めるかどうかを見ると、ポジティブな紹介が4.0%、ネガティブな紹介が4.3%と、こちらも概ね拮抗する結果となった。
しかし、会社の口コミサイトでは、ポジティブな書き込み4.8%、ネガティブな書き込み35.6%と、圧倒的にネガティブな書き込みが多くなる(図表3)。
3:元在籍企業と良好な関係を築いている離職者(アルムナイ意識が高い層)では、ポジティブな評判を広めやすく、元在籍企業との取引・利用が起こりやすいことが確認できた(図表4)。
「アルムナイ意識」は、協働意欲・交流意欲・顧客化志向の合計平均値で指標化。
離職した企業への再入社
1:離職後に再入社できる公式な制度(再入社制度)を設けている企業は8.6%。従業員5,000人以上の企業では20.2%と、従業規模が大きい企業から整備されている(図表5)。
2:離職した企業への再入社の意向をみると、再入社したい人は8.3%いる。実際に過去5年以内に再入社した人は約2.1%だった(図表6)。
3:再入社した人のうち、公式な再入社制度を利用したのは4.0%。整備は徐々に進んできているものの、現状では再入社者の75.7%が人づて・縁故などの非公式なルートで再入社していることがわかった(図表7)。
4:再入社者のメリットとして、「仕事内容が事前にイメージできた」(42.7%)、「組織内のキーパーソンが理解できている(37.7%)など、比較的スムーズに業務を進められる様子が伺える(図表8)。
5:再入社後の満足度は総じて離職時よりも高まっているが、「給与・報酬・評価への満足度」だけは離職時より微減する(図表9)。背景として、離職時と再入社後の処遇を比較すると、大企業(従業員1,000人以上)では 「年収低下」(32.9%)や「職位低下」(17.7%)など、再入社者を低く処遇する傾向がみられることが考えられる(図表10)。