CFOに求められる「価値創造」と「ガバナンス」という両利きの役割
セミナー冒頭、PwCコンサルティングの小林たくみ氏は、今回の調査の最も大きな発見として、経営のトップであるCEOと、財務のトップであるCFOの間に存在する「懸念事項の乖離」を挙げた。
PwCが別途実施している「世界CEO意識調査」では、CEOの最大の懸念は「自社のイノベーション力」であった。一方、今回のCFO調査において、CFOが最も懸念しているのは「大胆な変革とコア事業のバランス」である。この違いについて、小林氏は次のように分析する。
「CEOが『どの山に登るか』というビジョンを重視するのに対し、CFOはその『登るべき山にどう登るか』という具体的な設計図と、登るプロセスでの安定性に責任を感じています。期待される役割がCEOとは本質的に異なるのです 」(小林氏)
特筆すべきは、CFOの約8割が「価値創造」を最重要機能として挙げつつも、次点には「統制・コンプライアンス」などの守りの機能を重視している点だ。昨今、CFOには「攻めの姿勢」が強く求められているが、日本企業のCFOは攻めに傾倒するのではなく、強固な「トラスト(信頼)」を土台に置いた上での変革を指向している。
「攻める上では守りの信頼性が不可欠であると、多くのCFOが考えている」と小林氏は語る。これは、不確実な時代において、足元を固めながら着実に歩を進める「バランス型指揮者」としての自負の表れと言えるだろう。
事業ポートフォリオ再構築を担うには「経営の聖域」に踏み込め
インフレ時代における具体的な戦略として、PwCアドバイザリーの山口雄司氏は「事業ポートフォリオの最適化」に焦点を当てた。調査によれば、CFOが今後注力したいアクションとして、M&A(買収)を挙げる企業は68%と極めて高い。
しかし、過去の買収に対して「期待した成果が得られた」と回答した企業は50%にとどまり、前年調査から減少傾向にある。その主因はPMI(買収後の統合プロセス)における価値創出の難しさにあると山口氏は指摘する。
さらに注視すべきは「セルサイド(撤退・売却)」の課題だ。山口氏は「多くの企業で投資撤退のルールや基準は存在するものの、いざ実行に移す段階でブレーキがかかっています」と語る。撤退に踏み切れないことが、結果として事業ポートフォリオ全体の入れ替えを停滞させているのだ。
「ルールを作るだけでなく、その後の意思決定や実行プロセスを整備し、撤退を『前向きな選択肢』として社内理解を醸成することが重要です」と山口氏は提言する。
実際、経営計画や戦略領域を管掌範囲とするCFOは依然として全体の半分にも満たない。山口氏は「経営戦略とファイナンス機能を統合し、包括的な経営管理を推進するリーダーシップこそが、今求められている」と、CFOが経営の聖域に踏み込む必要性を強調した。
税務知見の不足が企業価値向上を阻害する
CFOの管掌領域が多岐にわたる中で、多くの企業が「死角」としているのが税務機能である。PwC税理士法人の塩田英樹氏は、税務がキャッシュに直結する「攻め」の機能であることを、具体的な数字で示した。「たとえば、売上5,000億円、営業利益5%の企業において、税率が1%下がるインパクトは売上換算で50億円に相当します。これほどの重要性を持つファイナンス機能は他にありません」と断言する。
しかし、調査結果は衝撃的だった。実際に税務の実務を経験したことのあるCFOは3割に満たない。この「経験不足」が、リソース配分の誤解や、現場との温度差を生んでいる可能性があると塩田氏は分析する。一方で、税務経験があるCFOほど「コンプライアンス(守り)」を重視し、戦略的な税務プランニング(攻め)が後手になる傾向にあるというパラドックスも浮き彫りになった。
「税務は、事業部や海外拠点を巻き込まなければ実行できない、極めて高度なコミュニケーション能力と巻き込み力を要する領域です。税務を経験することは、CFOに求められる『変革の指揮者』としての能力を磨く最高のトレーニングになります」と塩田氏は語る。税務を単なる事務処理ではなく、企業価値向上のための戦略的ドライバーとして捉え直すことが、日本企業の喫緊の課題となっている。
