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賞味期限の切れたビジネスから脱却するための「ビジネスモデル・キャンバス」の使い方とは

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 ベストセラー『ビジネスモデル・ジェネレーション』で提案された、ビジネスモデルを創造し改善するためのビジネスモデル・キャンバス。組織改革やチーム力の強化、個人のキャリア形成にも応用が可能ですが、その原点となる利用方法はやはりビジネルモデルの革新にあります。今回はキャンバスを実践で活用するための方法を解説した『ビジネスモデル・キャンバス徹底攻略ガイド』より、既存ビジネスから脱却するためにキャンバスをどのように利用すればいいのかを紹介します。

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本記事は『ビジネスモデル・キャンバス徹底攻略ガイド 企業、チーム、個人を成功に導く「ビジネスモデル設計書」』の「CHAPTER 5 CASE 1 既存ビジネスから脱却するためのキャンバス」から抜粋したものです。掲載にあたり、一部を編集しています。

既存ビジネスから脱却するためのキャンバス

 既存のビジネスの賞味期限が切れ始めている、長年慣れ親しんできたビジネスモデルが成り立たない、と感じられる業界は非常に多いと思います。特に最近は、従来安泰と思われていた企業にも変革の波が否が応にも押し寄せ、様々な取り組みに挑戦せざるを得ないというのが本音なのではないでしょうか。

「モノ」指向からの脱却

 著者は、本当に多くの企業の皆様のビジネスにかかわってきましたが、ほとんどの企業が必ずと言っていいほど陥りやすいのが、「モノ売り」の発想です。

 近年、世界的な市場競争は、「モノ」の価値ではなく顧客の「体験」に軸を移しています。どんな企業も、顧客デマンドへのソリューションなくしては成功することができません。

 頭ではわかっているようでも、実際には「良いモノなら誰でも買うだろう」とか「モノを見れば購買意欲がわくだろう」という思いが、心のどこかに染みついているのです。

 誤解があるといけないので、少し丁寧にご説明します。確かに誠実で高品質の商品は、たいていの人が欲しいと思います。特に「モノ作り」をビジネスにしている場合は、これが一番の収入源であることは変わりません。しかし、顧客の立場にたってみると、最高品質とまではいかないが値ごろ感がうれしいとか、シンプルさを重視したいので品質はそこまでで求めていない、という場合もあります。

 また、仮に品質が決め手になるビジネスの場合も、実はお客様自身が高品質だと思うのは、「エビデンスがあるから」とか、「評判がいいから」など、いずれも「顧客体験」にその価値がゆだねられることがほとんどです。

 つまり、既存の概念から脱却するためには、物理的な「モノ」にこだわるのではなく、それを顧客に納得してもらう「サービス(モノも含めた顧客の満足度)」に注目する必要があります。

 ここでは、百貨店の新規サービスを例に、既存とは違う考え方、特に顧客志向に基づいたサービス構築についてご紹介していきましょう。

1 テーマの整理

 ビジネスモデルをキャンバスで議論する場合、メンバーと検討内容のすり合わせをしておくと便利です。ここでは、「ビジネス整理シート」をご紹介しておきますので、参考にしてみてください。

[図5-2] ビジネス整理シート[図5-2] ビジネス整理シート

2 1stキャンバスによるたたき台

 テーマの共有ができたら、早速1stキャンバスで簡単なたたき台を作成していきます。ここでは、ざっくりと全体イメージをメンバーで共有できることが目的です。ビジネスとしての脆弱性は徐々に解消させていきます。

 1stキャンバス作成では、次のような点に留意しておくと良いでしょう。

  1. 既存のお客様や既存の商流とは切り離して、まったく違うサービスとして考える。
  2. 顧客セグメントには、なるべく具体的な動機別の顧客や典型的なイメージの顧客を想定しておく。
  3. 時間をかけすぎず、ひとまずざっくりとした全体像を早く全員で共有する。

[図5-3] 記念日お知らせサービスの1stキャンバス(例)[図5-3] 記念日お知らせサービスの1stキャンバス(例)

POINT 意見の発散と収束

 既存ビジネスに対して、改善したり新たなサービスを開発する場合は、検討メンバーの意識や考え方にばらつきが生じることが多くなります。こうした意見は、力任せに集約するのではなく、採用しない意見も別の機会に活用できるよう拾っておきます。ただし、いろいろなアイデアを全部取り入れるのは、ターゲットが希薄になったり、オーバースペックになるためお勧めできません。

 新規モデルの構築は、意見の「発散」と「収束」を繰り返しながら、より脆弱性の少ないモデルにアップデートすることが基本です。また、仮説が最終的な正解になることも稀です。そのため、検討経緯や現状の仮説の背景などを必ず可視化し、別の仮説に戻ったり、後から加わったメンバーにも適切に状況把握してもらえるような記録を残しておくことが必要です。

3 ターゲット顧客の設定

 次に最も重要となるのが、顧客セグメントのターゲットの考え方です。

[図5-4] 顧客セグメントの優先度[図5-4] 顧客セグメントの優先度

 1stキャンバスで洗い出した顧客セグメントのターゲットについて、優先度を検討していきます。1stキャンバスに挙がっている顧客セグメントは、どれの優先度を高く設定しても、様々な可能性のあるモデルを構築することができます。

 ここでは、まずパートナー向けに少しリッチなプレゼントを検討している人をメインターゲットにしています。以下に、検討の経緯で出てきたいくつかの仮説を示しておきます。

  • 孫にお金をかける祖父母は一見優良顧客だが、祖父母の年齢層を考慮すると、既存の百貨店店舗との親和性がそれほど悪くない。実店舗での囲い込みからネットへ誘導するほうが効果的なのでは? アプリやネットとの親和性を重視する新規サービスに、あえて初期のフェーズで取り込むことに注力しなくて良い。
  • 記念日を忘れないようにお知らせするサービスを強化する場合は、忘れやすい人の優先度を上げるべき。
  • 記念日のリマインドだけでなく、プレゼント購入までの一連のプロセスを売りにするなら、購買意欲が高い顧客から優先度を高く設定する。
  • ビジネスが第2フェーズに入った場合は、顧客層のすそ野を広げ、潜在顧客を増やすために、違う顧客にフォーカスを移すことを前提とする。
  • 顧客セグメントとして、ネット購入に抵抗感が少ない層から取り込み、まずは早期のスモールスタートをゴールとする。

POINT 本来目指すべき姿に集中する

 既存ビジネスから脱却するために立ち上げたプロジェクトの検討で最も生じやすい課題の1つに、「現行の商流」や「既存の顧客営業への配慮」をどうするかというものです。既存ビジネスを変革するためのモデルや新天地を検討するための議論は、なるべく現状に縛られないことをあらかじめ検討メンバーと共有しておきます。乱暴な極論ですが、ひとまず現状のしがらみを一切配慮しません。「本来目指すべき姿」がどこにあるのかに集中することが、最初に越えなければいけないハードルとなります。

4 顧客インサイト分析

 顧客の潜在的なニーズを確認するための顧客インサイト分析を行います。

[図5-5] 「個客」の典型的なイメージのペルソナ[図5-5] 「個客」の典型的なイメージのペルソナ

 できるだけ具体的なターゲット「個客」の典型的なイメージペルソナとして活用していきましょう。ここでは新婚の夫を対象にした分析になっています。

 既存のビジネスモデルと異なる取り組みを行う場合、顧客志向を徹底することは、メンバーのマインドセットを変革するうえで最も重要です。

 検討メンバー全員が、プロダクトアウト(社内の事情や背景から語る)志向から脱却し、顧客志向で語れるスタンスが常態化しなければ、なかなかうまくいきません。

 自分たちの顧客理解はまだまだ足りていないと感じた場合は、共感マップなどを活用して、顧客の思いや意識を可視化する習慣を身につけましょう。

[図5-6] 共感マップによる顧客インサイト(検討例)[図5-6] 共感マップによる顧客インサイト(検討例)

 共感マップでは、自分たちの想定しているお知らせサービスにどんな要求を持っているのか記載していきましょう。特に注目してほしいのは、「Gain(うれしいこと)」です。Gainには、仮に記念日お知らせサービスがあったら、どんなサービスを使いたいと思うかいくつも列挙します。

 共感マップで明らかにした「個客」が要求する仕様のイメージを、具体的なサービスメニューにマッピングするためにVPキャンバスを活用していきます。

[図5-7] 記念日お知らせサービスのVPキャンバス(検討例)[図5-7] 記念日お知らせサービスのVPキャンバス(検討例)

 VPキャンバスの右半分(顧客側)は、共感マップを検討することでほぼ完成します。左半分の自分たちのサービスの機能やメニューは顧客デマンドに照らし合わせて、建て付けを検討していきます。

 ここでは、当初想定していた記念日の通知機能と贈り物の検索機能をベースに、もう少し差別化できる機能がないか検討していきます。

 この検討例では、「贈り先に喜んでほしい“個客”」に訴求できる観点として、以下のような点に留意して機能を追加してみました。

  • ただ贈るのではなく、贈り物のバックストーリー(どんな原料でどんな生産方法にこだわっているか)が贈り物の付加価値を上げる。
  • 選んだ背景などを共有することで、こだわりの贈り物(ただモノを贈るのではなく、気持ちを贈る)を通じて話題も提供。
  • 相手とのコミュニケーションに役立つ。

 これらを踏まえて、いったん記念日お知らせサービスの機能概要をおおまかに以下のように想定します。

  1. 登録管理:自分の情報、送り先の情報、記念日など属性情報の登録
  2. 記念日ごとに、設定したメールアドレスやアプリ経由で通知
  3. 記念日や属性情報、過去の履歴などから贈り物のリコメンド(検索、リコメンド、トレンド情報など併用)
  4. 提案した贈り物のこだわりやバックストーリーの閲覧

POINT ペルソナにピンと来なければ……

 1人のイメージだけでピンと来ない場合は、何人かのペルソナを準備します。また、「個客」への理解が浅い場合は、共感マップを持参し、メンバー以外の人やお客様に近い人物にヒアリングをしてみると気づかなかった意見をもらうことができます。同じメンバーで議論していると視野が狭くなりがちで、同じ落としどころを無意識に目指してしまいます。なるべく多くの意見を聞いてみると客観性が出てきます。

5 ビジネスモデルのアップデート

 VPキャンバスの検討から得られた内容をビジネスモデル・キャンバスに反映して、全体のモデルを構築していきます。ビジネスモデルとして全体が成立するか、実行可能かなどの観点で検討します。

 変更箇所は、違う色の付箋紙で記載されています。主な変更は、価値提案の更新とそれに伴って必要となった実装機能の追加のための主な活動です。また、なるべく多くの潜在顧客を取り込むために、年会費を初回購入で返金するなど、課金の要素にも変更を加えています。

[図5-8] アップデート後の2ndキャンバス(検討例)[図5-8] アップデート後の2ndキャンバス(検討例)

6 新しいビジネスモデルの提案

 ビジネスモデルの構築は、常に仮説・検証と修正の繰り返しです。本来は、顧客分析の検討以外にも、競合情報や市場調査などを踏まえた外部環境分析、さらに顧客へのリサーチなどもう少し脆弱性を解消するための検討とモデルの修正が伴います。

 ここでは、詳細は少し割愛して、こうした新規のビジネスモデルを提案するために重要な要件をご紹介しておきましょう。

 せっかくメンバーが、ビジネスモデル・キャンバスでの議論ができるようになっても、上司や上層部の理解が得られないと先に進みません。そこでここでは、稟議や提案に必要な要素を簡単にまとめるためのヒントをご紹介しましょう。

 資料は、どうすれば伝わりやすいか(=訴求効果)を考えることが先決です。これは当然、「対象者」と「目的」によって変わるので、資料もそれに応じて変えることが定石です。しかし、あらかじめパーツごとにモジュール化して作成しておくことで、毎回一から作成するのではなく、パーツの組み換えで対応できます。

 稟議や報告では、検討したビジネスを後押ししてくれる何らかのアクションを引き出すことが必要です。ここでは、ビジネスモデル・キャンバスの要素をうまく流用した企画書のサンプルをご紹介します。

[図5-9] 企画書で押さえるべき観点(企画書サマリー)[図5-9] 企画書で押さえるべき観点(企画書サマリー)

 このフォーマットのポイントは、キャンバスを知らない人でも提案内容の全容を把握できるような項目が網羅されていることです。

 一方、内容はビジネスモデル・キャンバスから転記して整理したものがほとんどです。もともとキャンバスはビジネスの要点を押さえるためのフレームワークなので、提案資料への転用も容易にできることを覚えておくと、効率的なうえ論旨の一貫性を保ちやすくなります。

 ここまでを通じて、「モノ売り」中心の既存のビジネスからの脱却をテーマに、新たな取り組みを進めるための検討例をご紹介しました。

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企業、チーム、個人を成功に導く「ビジネスモデル設計書」

著者:今津美樹
発売日:2020年9月17日(木)
定価:1,800円+税

累計14万部以上のベストセラー、『ビジネスモデル・ジェネレーション』シリーズ3作で解説された実践メソッドを、「つまずきやすい点」「よくある疑問」を含め事例とともに1冊に凝縮しました。

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この記事の著者

今津 美樹(イマズミキ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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