世界のM&A案件数は、2020年上半期に4分の1近く(23%)減少、アジア・パシフィック地域のみでも第1四半期に20%下落しており、これはGFC時代の減少状況を2年先行する速さだという。しかし、このパンデミックからのM&A回復状況については、アジア・パシフィック地域と世界のその他地域との間に乖離が生じている。年初来の9ヵ月間で見ると、アジア・パシフィック地域の案件数減少が前年比8%であるのに対し、米州(南北中米)では前年比20%減、EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)では前年比15%減と、はるかに厳しいものとなっている。
アジア・パシフィック地域内でも、いくつかの国や地域のM&A活動が、より急速に回復しつつある。たとえば、中国では2020年3月と4月の案件数が早くも2019年の月平均レベルまで上昇し、今年下半期にかけても比較的安定的にこのレベルを維持しているという。
早期に動き、大胆な決断を下した企業がより良い結果を出す
GFC直後の期間における取引を検証したEYの調査によると、早期に動いて事業のポートフォリオ再構築のための買収を大胆に決断した企業は、そうしなかった企業と異なり、その後10年間に株主総利回りが26%上昇したことがわかっている。さらに、資産売却などによって積極的にポートフォリオを再構築した企業は、同じ期間に24%高いリターンを達成している。この調査はまた、GFC後に設備投資や研究開発を強化して積極的に事業に投資した企業が、もっと慎重なアプローチをとった企業に比べて2倍から3倍の高いリターンを得たことも示している。
業界および企業の再編が、アジア・パシフィックM&Aの取引額と件数増加を牽引
今回のパンデミックの影響は、アジア・パシフィック地域の各国、各地域において依然異なる段階にある。中国のM&A活動が既に新型コロナ以前のレベルに戻っているのに対し、オーストラリアの月別案件数は、直近の四半期に徐々に回復し始めたばかり。
日本のM&A活動は、2020年第1四半期においては、他の大方のアジア・パシフィック地域と異なり比較的軽度な影響を受けるに留まっていたが、その後、新型コロナ関連の各種規制とそれによるビジネスへの影響を受けて減速し始めた。渡航制限によって海外でのM&A活動が減少し、多くの案件が保留となった一方で、国内のメガディールに牽引されて日本の国内M&A取引総額は2020年第3四半期に15年来の高い水準となっている。
アジア・パシフィック地域全体では、高額案件が2020年第3四半期に3,920億米ドルに達し、第3四半期として過去最高を記録。これは国内の業界再編やテクノロジー案件に牽引された結果だという。特に目をひくのは、世界でも年初来最大の案件となった中国の石油・ガス統合案件など、中国や日本で増加したメガディール(取引額100億米ドル超)が今年第3四半期の取引総額を押し上げたことだ。日本では、通信大手がグループ内の移動体通信事業の完全子会社化を決定しており、日本企業として過去最大規模の株式公開買い付けが成立している。 アジア・パシフィック地域の見通しは良好
アジア・パシフィック地域の多くのセクター(業界)のM&A活動は、パンデミック下でも回復力の強さを保ってきた。年初来9ヵ月間に案件増加(前年比)を見たセクターは、通信(19%)、ライフサイエンス(9%)、電力・ガス等公益事業(9%)など。アジア・パシフィック地域で最もM&A件数が旺盛なセクターとしては、依然としてテクノロジー、先端製造業、コンシューマーが挙げられる。特に、テクノロジーはアジア・パシフィックで最も早く回復したセクターの1つであり、案件数が2019年の水準に戻るとともに、M&Aを業界全体の変革アジェンダの一環として推進し続けているという。