Yコンビネーターといえばシリコンバレーの最強のスタートアップ養成のスクール。 創設者のポール・グレアムの手腕で世界中から卓抜なベンチャーが発掘されてきたことで有名だ。
最近では、Webやソフトウェアのベンチャーだけではなく、IoT(モノのインターネット) のトレンドやメーカー・ムーブメントを反映したハードウェア・ベンチャーも数多く生まれている。 その中で注目されているのが、ドイツ出身のCEO、トビアス氏が起業したSenic社。同社がクラウド・ファンディングによってリリースする製品「Flow」は、次世代入力デバイスとして注目されている。
Yコンビネーターとクラウドファンディング
Senic社の「Flow」は、平べったい円盤状で美しい形状のツールだ。コンピュータの入力デバイスとして、グラッフィクデザイン、CAD、音楽をはじめ、様々なWebアプリケーションにも対応する。
近年、コンピュータの入力デバイスは、マウスとキーボードから、スマートデバイスでのタッチパネル、マイクロソフトのSurfaceのようなペンコンピューティング、さらにはLeapMotionやKinectなどの、ジェスチャーによる入力、VR環境での身体動作まで幅が広がりつつある。
こうした入力デバイスやUIのイノベーションの中で、このデバイスが注目されているのは、なにより微細な動きと反応が、クリエイターの思考や表現をインスパイアするものだからだ。
周辺の部分をダイヤルのように回したり、表面へのタッチや、手の動きによる距離の調整、スワイプなどの手振り(ジェスチャー)を高感度に認識する。 デザインや音楽などのクリエイティブワークであったり、ゲームの入力デバイスとして適しているのは、従来のマウスとキーボードの操作に比べて、極めて直感的なところ。さらにトラックパッドよりも、立体的な動作を認識するため、より柔軟で創造の幅を広げる。
そして特筆すべき点は、プログラマブルであること。基本操作以外の機能も、ユーザーの簡単なプログラムによって追加することができる。またPCアプリケーションだけではなく、様々なハードウェアやIoT関連のデバイスに対しても使用できる。
Flowもまた、こうした流れと、IoT(モノのインターネット)の流れに位置するプロダクトではあるが、Flowには、人間の直感的な操作とクリエィテイブの関係についての深い洞察が込められているという。デジタルなプログラムをより実体感のあるものにより、身体的に操作するという「タンジブル」なUIともいえるかもしれない。その特質は、以下の3点といえる。
- 画面内で出来ない事を、リアルな感覚・触覚を使ってコントロールする。
- PCアプリケーションからIoTデバイスまであらゆる対象に使えるように、プログラマブルである。
- Made in Germanyの品質
CEOのトビアスの親は実際にドイツで秤を作っていた人。そういう意味では生粋のものづくりの血を継いでいるといえそうだ。ソフトウェアではなくハードウェアでスタートアップした理由は「ソフトウェア(画面の中)の限界を超えたかったから。」だという。 Flowは、INDIEGOGO(インディゴーゴー)というクラウドファンディングで先行ユーザーの募集がおこなわれ、最初の10日間で目標金額の2倍をクリアしたという。
Senic社に日本のIT企業「インフォテリア」が出資した理由
2013年のYコンビネーターのDemoDayで、Senic社のトビアス氏のプレゼンテーションを見て、惚れ込んだ人物がいた。インフォテリア社長の平野洋一郎氏だ。その時、トビアス氏の経営者としての資質、IoTビジネスに関する展望、ものづくり大国ドイツ出身らしいマインドを持ち合わせていた。そこを平野氏は、高く評価をし出資を決断した。そしてトビアス氏は、その資金を元にFlowという新たな価値を生むプロダクトの製品化にまでたどり着いた。
インフォテリアといえば、データ連携やモバイル関連のソリューションを企業向けに提供する国産のエンタープライズIT企業。クリエイティブツールやIoTのビジネスには、縁遠いイメージがある。しかし同社は、データやシステムを「つなぐ」ことを事業のコアにしてきた企業である。平野氏によれば今回の投資は、つなぐ対象を「システム→人→モノ」へと拡張する戦略の一環なのだという。
日本でもようやく盛んになってきた、IT企業によるCVC(コーポレート・ベンチャー投資)ともいえるが、インフォテリアの投資目的は、事業シナジーを見据えたものだという。
コンピューティングの進化は、OS,WebやアプリケーションのUIや操作系の変化にとどまらず、デバイスからIoT、さらにはVRやARといった流れとして、今後数年加速していく。こうした流れの中で、新たなデバイスやツールのイノベーションが登場してくるだろう。「Flow」が世界中のイノベーターから注目されるのは、そのような予兆を感じさせるデバイスだからかもしれない。