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「2045年問題」の時間軸を再考する-心のリバースエンジニアリング

書評:『フューチャー・オブ・マインド』

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未来をシミュレートする能力

 第4回将棋電脳戦が3月14日から開幕となった。プロ棋士とコンピュータとの5番勝負で、2012年の第1回以来、コンピュータが人間に勝ち越している。今回はどうなるだろうか。
 人工知能の性能が2045年に人間のそれを上回る、「2045年問題」と呼ばれる予測がある。提唱するのは米国の著名発明家レイ・カーツワイルだ。

 だが、本当だろうか? 確かにコンピュータは、ムーアの法則に沿って指数関数的に性能を伸ばしている。しかし本当にコンピュータは、あと30年という短い時間で人間に追いつけるのだろうか。

 人間とコンピュータを比較する前に、「知性」とはそもそも何であるのかを明らかにする必要がある。我々が持つ「意識」や「心」がどんな原理で生まれて、動いているのか、我々はよくわかっていない。

『フィーチャー・オブ・マインド』(ミチオ・カク 著、NHK出版)

 本書のテーマの1つが、人間の「心」や「意識」の正体を探ることである。「私」とは何者なのか、魂はあるのか、死んだらどうなるのか。こうした疑問に対して、理論物理学者である著者が科学的な論証を試みる。

 科学者らしく、著者はまず「意識」「自己認識」「知性」の定義付けを行っている。著者の仮説によれば、意識とは「目標をなし遂げるために、種々のパラメータで多数のフィードバックループを用いて、世界のモデルを構築するプロセス」であるとする。

 「種々のパラメータ」とは、自分と外部環境との関係である。著者はさらに、利用できるパラメータの数に応じて、意識のレベルを定義する。
 たとえば植物は、温度などの限られたパラメータをもって世界を認識する(レベル0)。昆虫や爬虫類などは移動できるので、さらに空間の変化も認識する(レベル1)。猫など高度な動物になると、他の猫との社会的関係の認識も重要になる(レベル2)。
 レベル3の意識を持つのが人間である。他の動物との違いは、「世界における自分の居場所のモデルを構築してから、大まかな予測をして未来に向けてのシミュレートをする」ことだ。このレベル3の意識をもって、「人間の知性」とする。

 ちなみに、レベル1からレベル3への意識の変化は、脳の進化の歴史でもある。ムシからヒトに変化するにつれ、脳幹、辺緑系、新皮質と、脳は領域を拡大してきた。脳のこれらの領域は、それぞれレベル1から3の能力を司ることがわかっている。

 人間の脳の重量の80%を占めるとされる新皮質は、未来のシミュレーションを司る。レベル3未満、つまりヒト以下の昆虫や動物は、新皮質が未発達のため未来を認識する能力を「原理的に」もてない。

 精神論や哲学でなく神経科学の裏付けをもって、意識や心、そして知識の問題を扱うのが本書の醍醐味である。

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現在の人工知能の意識レベルは「昆虫」

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弦音 なるよ(ツルネ ナルヨ)

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